0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
鼻頭のお化け
「死んで,お姉ちゃん」
妹がそう呟くのが聞こえる。なんで,の三文字が,私の頭をめぐる。
「どうしたの,鏡」
妹は「鏡」と言う名前だ。いつだって,私たちは一緒だった。距離が近い,と言うわけではなく,何が起こるにも同じ時間,時期,症状。インフルエンザで苦しむのも,一緒。好きな人も,一緒。でも,性格は全然違った。
今朝の,鏡との会話を思い出す。
「鼻頭になんかいるよ」
「え,やっぱり?」
「うん」
「あ,鏡は頭の上になんかいるよ」
思えば,あれがおかしかった。いつも通りなら,鏡にも鼻頭にお化けが取り憑くはず。
『我慢できるものも,暴走させる』
妹は,私に殺意を抱くほど,私を憎んでいたのだろうか。とにかく,私の人生はこれで終わりかもしれない。
「ごめん」
何が癪に触れたかはわからなかったが,心が潰される前に,謝った。そして,それが起こる。
目の前が光った。鏡が呻く。そして,今度は鏡が倒れた。どうやら助かった,らしい。鏡は気絶している。頭にいた幽霊は,もう見えなかった。でも,なぜ
「なんで」
しばらくしてから,連くんが口を開く。
「ああ,やっぱりあれは守護霊だったんだよ」
「あれ?」
「ほら,鼻頭の」
そう言われて,また鼻頭を触る。特に何もなかった。
「まだまだ研究途中でわからないけど,一つ言えることは,鼻頭のお化けは頭の怪物を知っている,ってことだね」
駄洒落好きな私は,それを聞いて,
「鼻頭のお化けは頭の怪物を知っている」
と頭に思い浮かべる。noseとknowsでは苦しいかもしれないので,言わないことにした。
「あああと,僕の持論だけどね。守護霊っていうのは,恐らく生霊だと思うんだ」
「生霊,ですか」
「そう,生霊です。生きている人間の思いから生まれた霊だね」
なら,感謝しなければならない。しかし,カメラで自分を見たところ,もうお化けはいなくなっていた。
「もしあのお化けの持ち主にあったら,惚れちゃうかもなあ」
「惚れちゃうんだ」
連くんはいつもの無表情の中に少しだけ,悲しさを覗かせた。それを見て,私はあの時,カメラで鏡が襲ってくるのを見た時に,ちらっと見えた幽霊の姿を思い出す。
「連くん,今日はありがとうございました」
「いや,役に立てたなら良かったよ」
あの幽霊,りんご柄のイヤリングをしてたな。
最初のコメントを投稿しよう!