tip off

6/13
前へ
/13ページ
次へ
「ありがとうございます。男バス、なんですね」  はにかみながら彼女が微笑む。 「そう。一年、辻彰人(あきと)」 「東条(とうじょう)奈子です」 「私は高村(たかむら)真希(まき)だよ。そっか、男バスだったんだ。気づかなくてごめん」  背の高い高村がさっきまでの喧嘩腰を謝罪してきた。 「いや、気にしてねーよ」  本当はちょっと気にしている。  だって明らかに不審者扱いしたからな。 「ね、辻くんはポジションどこ?」 「中学ではポイントガードだったけど。うちの高校、ほかにポイントガードが上手な先輩も同級もいるし、スリーポイントに今は力入れてるから、シューティングガード目指してる」 「あ、私もシューティングガードなの。一緒だね」 「ちなみに私はセンターだよ」  高村の言葉に思わず頷く。 「だろうな。お前、背も高いけど迫力あるし、センター向いてそう」 「でしょ?ちょっとやそっとじゃ負ける気しないからねっ」  豪快に笑う高村に、俺もつられて笑う。 「ま、そうはいっても今はまだ一年だし。レギュラーには手が届かないんだけどね」  少し諦めがちに呟いた高村に、つい今まで笑っていた声がピタッとやんだ。  決して年功序列なわけじゃない。だけど今はまだ、先輩たちには到底追いつけない。 「でも!たとえ今はレギュラーになれなくても、いつかはなれるように頑張るもん。それに夏の地区優勝はチームとしての夢なんだから!」  茜色に染まる空の下、力強く宣言する彼女が輝いてみえる。  夕陽のせい?  意志の強さを宿す瞳が、まっすぐに俺をみる。 「そうだな。今、出来ることを精一杯やって。お互い地区優勝出来るように、頑張ろうな」  はじめて交わした約束。  この言葉を胸に、夏の大会に向けてひたすらに頑張り続けた。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加