『ユガミ』様には気を付けて?

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『ユガミ』様には気を付けて?

「アオは、今日はどうするのけぇ?」  朝ごはんの片づけを手伝っていると今日の予定を聞かれた。  おばあちゃんは午前中は家で畑仕事をして、午後になると友達の家に「お茶を飲みに」いって夕方までおしゃべりして帰ってくる。 「わたしは家で宿題してゲームしてる」  居間のテレビには家から持ち込んだゲーム機がつないである。  あまりゲームは得意じゃないけど、学校の友だちがみんなで『集まれアニマルの森』をやるというので去年のクリスマスに両親にねだって買ってもらったのだ。仲間はずれとか、やっぱり嫌だし。 「そうけぇ、外さぁ出るときは帽子かぶるんだで」 「外……いかないけど」  と言いかけて思い出した。  そうだ自由研究!  自由研究は「お父さんやお母さんの子供時代、当時の暮らしについて調べる」というものだから、外に行かないと出来ないじゃん。  わたしは「おばあちゃんの家でかんたんに書けそう」とタカをくくっていた。でも宿題は当時の暮らしや様子を聞いてまとめるだけじゃなく、周辺の様子もスケッチしなきゃならないなんて。  うぅ、めんどくさい。  あれ?  でも……夏休みがループしているなら宿題なんて、やっても意味がないんじゃ?   いやいや。  ダメ。  ループがずっと続くワケないし、今日で終わっているかもしれない。  だって今朝のラジオ体操では千穂さんに話しかけられた。二回あった「8月8日の朝」ではあんなこと無かったわけで……。  今日でループが終わって、ふつうに時間が流れているとしたら?  宿題をやっていないと大変なことになる! 「おばあちゃん、わたし自由研究やらなきゃないの! あとでいろいろ教えてほしいことが」 「おぅおぅ、いいとも」 「それとあとで出掛けるかも。えと……近所、このあたりを見て回りたいの」 「あい、気ぃつけて遊んでおいでぇ」  おばあちゃんは嬉しそうに微笑んだ。  いや遊びじゃないんだけどね。 「んだども、ひとりで子供が夏の昼間に歩くときは『ユガミ』様には気ぃつけんといかんよ」  え?   ユガミ……さま?  なにそれ、初めて聞く名前。  誰か怖い人のことかな?  この古い家には『ザシキワラシ』がいて、外には『ユガミ』さまがいる?  田舎……怖すぎでしょ!? 「えと……『ユガミ』さまってなに?」 「夏の昼間になぁ、道路の先が歪んで見えたり……田んぼの向こうが霞んで見えたり……。それに古い神社の御社(オヤシロ)さぁ何かがいるように見える……それはみぃんな『ユガミ』様じゃから、近づいたらいかんよ」 「なにそれ怖い……」  それって妖怪か「あやかし」みたいなもの?  そうだ、夏の田んぼには『くねくね』っていう怪異が出るって本で読んだ。  見ると頭が変になる妖怪、もののけ。図書室の『現代妖怪ずかん』でみたことある。  けど、そこに『ユガミ』様なんて乗っていなかった。 「『ユガミ』様ぁこのへんの里に昔からいるモノだぁ。一人でいる子供さぁ、悪さして……遠くへつれてゆくモノだぁ」   「子供に……悪いこと?」  遠くへ連れてゆく……って。  ちょっとゾッとする。  怖い妖怪か何かだ。 「まぁ、子供が一人で歩くときは気ぃつけんといかんよってことだぁ。とくに夏の暑い昼間に歩くと……ワシが思うに、『熱中症(ねっちゅうしょう)』になるぞっていう、ご先祖様のありがたーい知恵だと思うけんどね?」  くししっとおばあちゃんはいたずらっ子のように笑った。 「あっ、なーるほど……」  意外にもおばあちゃんは現代っ子らしい。  なーんだ。  熱中症に注意しろって意味なのね?  ちょっとほっとする。  昔の人が熱くて倒れると『ユガミ』様という怪異、もののけのせいにしたのかな? 「アオ、ちゃんと麦わら帽子、かぶってでかけるんだでぇ」 「わかった」  でも『ユガミ』様は子供に悪さをする……という部分がすこし気になった。  わたしの今の状況、夏休みが「ループ」する原因ってもしかして……。  いやいや、何も関係ないかもしれないし。  そもそもわたしは『ユガミ』様なんて見ていない。  何にしても『ユガミ』様なんてワケのわからないモノには、ぜったい近づかないようにしよっと。  わたしは密かに心に決めて、すこし出かけてみることにした。
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