そうだ、〇〇へ行こう

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「K君、どうやら上手くいったわね」 「はい、A子博士、無事に実験成功しましたね」  ここはタイムマシンの研究している研究所。  その中でA子博士と助手のK君は、遂にタイムマシンの技術を完成したのだ。  しかし、そのタイムマシン技術には致命的な欠点があった。    タイムマシンでワープした人間は、転送先の人間と直接接触できなかったのだ。  すなわち、時間旅行の旅人が過去に行っても、過去の事象に直接的な影響を与えられないし、過去の人間に対してアドバイスすることも出来ない。  * * *  ──サッカー留学する幼馴染のS君に、出発前に告白したかったのに。  サッカーが優秀で高校の途中で海外にサッカー留学することになったS君の飛行機の出発時間は12時の予定のはずだった。  だから、A子はその時間に会わせて飛行場に行って、幼馴染のS君に告白する予定だったのだ。しかしS君の実際の出発時間は、なぜか10時だった。  S君に告白するために、A子が飛行場に着いた時、すでに彼は機上の人になっていた。  誰もいない飛行場で、ショックに打ちひしがれていたA子は考えた。  なんだ簡単なことじゃない。時間を間違えていたのなら、もう一度あの日に戻って、こんどこそ正しい出発時間に間に合うように到着して、S君に告白すれば良いだけじゃない。  ──そうだ、あの時へ行こう!  そう考えた彼女は、もう一人の幼馴染でもあり、物理が得意なK君の力を借りてタイムマシンを開発すべく、苦手な理系分野に舵を切ったのだった。  そうして、その時からK君を助手として、寝食も忘れて必死に研究した成果がこれだったのだ。  * * *  このままでは、せっかくS君が出発する日にタイムマシンでワープしても、過去の自分に二時間の遅れを伝えられない。そう思ってA子は悩む。  しかし、助手のK君が慰める。そんなことない、過去の人間と直接会話出来なくても、コメントを残すことはできるはずだ、と。  たとえばカレンダーに記載した出発予定の時間が間違っていたのなら、その時間を修正すればいいはず。自室のカレンダーに書き込んだ数字をこっそり修正する程度なら、タイムマシン技術には影響ない、はず。  過去のA子が、その数字の訂正に気が付いて、飛行場に早めに行ったとしても、それはタイムマシンでワープした時間旅行者が過去の人間に直接影響を与えたことにはならない、はずだと。  * * *  K君のアドバイスを胸に、A子は過去のあの日の前日に戻って、自分のカレンダーに書かれていた『12時』の文字を『10時』と書き直した。そして、目覚まし時計も10時の出発に間に合うように、こっそりと再セットした。  そうしてから、S君が出発する空港で、過去の自分が来るのをじっと待っていた。しかし何故か不思議なことに、過去の自分はS君が出発する時間には間に合わなかった。  不思議に思った彼女が、過去の自室のカレンダーを確認しにいくと、修正したはずのカレンダーには、『12時』の文字が残っていた。  確かに修正したはずだった自室のカレンダーと目覚まし時計は、修正前の元の文字と設定に戻っていたのだ。  ──なぜ、元に戻っちゃったの?  A子は不思議な気分だった。  しかし、A子がタイムマシンで過去の自分の部屋に行って、カレンダーの文字の修正と目覚ましの再設定を何度繰り返しても、いつのまにか、それらは元に戻っていたのだ。  A子は悩む。  タイムマシンの技術が不完全なのか? それとも、やはりどう頑張っても過去の事実は変えようがないのか?  助手のK君は、そんなA子の肩を後ろから包み込むようにやさしく抱いて、これからも一生君をサポートするからね、とささやいた。  * * *  例え幼馴染でも、サッカーにしか興味がないSなんかにA子ちゃんを渡すものか。  A子ちゃんはもう覚えていないだろうけど、Sの出発時間を前日に彼女に伝えたのは僕だ。A子ちゃんが出発日に空港でSに告白するのは、彼女から相談を受けて知っていた。だから当然、僕は出発時間を二時間遅く彼女に教えたんだ。  だからこそ、告白出来ないで落ち込んでいたA子ちゃんが、突然タイムマシンを作ると言い出した時はビックリした。そして、本当に作ってしまった時も……。  でも、A子ちゃんがタイムマシンで過去の自分の部屋に行って、出発時間や目覚まし時計のアラーム設定を変更しても、僕がその後で全て元に戻しているなんて、さすがの彼女も気が付いていないみたいだね。  これからも、ちゃんと見てるからねA子ちゃん。何回過去に戻ってもあの時の事実は変えないよ。全ては君のためさ。 ──A子ちゃん、大好きだよ。 (了)
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