迎え火たいて

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迎え火たいて

「さぁ、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん。煙に乗っておかーえり、お帰り。」  8月13日。  佐々木家では、ユイお姉ちゃんが、藁を少し束ねて火をつける。  私ユウカと弟のユウトは煙の上をぴょん、、ぴょん、、ぴょんと3回飛び越える。  お盆の夕方早めの時間。ご先祖様が家に帰ってこられるように迎え火をたく。  ユイお姉ちゃんは25歳。私ユウカは17歳。弟のユウトは15歳。 ******    いつもは静かな天国に、お盆の迎え火の煙のにおいがしてくると、魂たちは急に大騒ぎになる。 「そうだ!家へ行こう」  それぞれのお家で次々に迎え火がたかれ、お家がある魂たちはみんな我先にと家へ向かい始める。  自分の家の迎え火を間違えないようによく見て、煙に乗って家に帰るのだ。  まるで、人間界のお盆の帰省ラッシュだ。  人間界も天界も、この時期は大忙しなのだ。    2年前に対向車線をはみ出してきた車に衝突されて突然に亡くなったお父さんとお母さんは子供たちが力を合わせて毎日生き抜いているのをいつも空から見ていた。子供たちがたいてくれた迎え火の煙に乗れるように大急ぎで移動してきた。  70歳の記念に海外旅行に行ったときに、海外でテロに巻き込まれて亡くなったおじいちゃん、おばあちゃんも大急ぎで煙に乗れるよう移動してきた。  佐々木家の煙の上で、出会った4人は一年ぶりだね。と挨拶をして、スゥッとキュウリの馬に乗った。    馬の上で4人は話した。  お父さんとお母さんの事故の後、相手からの賠償金とか保険金とかが沢山貰えたので、縁の切れていた親戚たちが群がって、お金と引き換えに3人の面倒を見ると言ってきたとき、お姉ちゃんのユイが、 「これまでお逢いしたことのない方達のお世話にはなれません。」  と、きっぱり断ってみんな追い払ったこと。  お祖父ちゃんたちの残したお金もまだあったし、お父さんたちの賠償金やら保険金で、生活の心配は無かったし、お姉ちゃんがもう働いていたので3人で暮らしていくことができた。 「なんてしっかりした子供達。ユイはもう大人だったけど、ユウカとユウトもよく勉強もして、家事も手伝って。自慢の子供達だねぇ。」  4人がそんな事を話している間に、懐かしい我が家についた。  お仏壇には綺麗に飾った提灯や、お盆のお供え物が上がっている。  ユイは天ぷらを揚げ、お仏壇にも一式持って来た。 「4人とも天ぷら好きだったから喜ぶね。」  ユウトがそう言いながら、自分たちの分をつまみ食いした。 「こら!まずはお祖父ちゃんたちが食べてからでしょう?ほら、きっともう帰ってきているから、お線香をあげてお祈りするのよ。」  ユウカに怒られて、ユウトは慌てて、姉たちに続きお線香をあげ、小さな声で 「お帰り。」  と、つぶやいた。  母の手が優しく自分の頭をなでてくれた気がした。  お母さんは、まだ中学生になったばかりでたった一人の男の子だったユウトが不憫でならなかったが、自分がたった一人の男子だと、自覚をもって、重いものを率先して買い物に行ったりして、よく姉二人を支えてくれている。  ついつい、頭をなでてはみたけれど、もう、15歳にもなると大きくなってそんな仕草も似合わなくなってきている。  でも、せっかくお盆に帰って来たのだから、いる間位頭をなでてあげよう。そう思って、ついつい一番末っ子を可愛がってしまう。  そんな日が4日ほど続いてなんだか魂がこの世に落ち着いてしまいそうな頃。    8月16日。  送り盆が来て送り火を焚かれる。  そうすると、また魂たちは大急ぎ 「そうだ、天国に行こう」  急に思い出したように、大騒ぎになる。  茄子の牛に、沢山のお供えのお土産を貰って、煙が天に上る勢いのうちに煙に乗って天国に帰って行く。  魂になると、人間界の煙が暦としての頼みの綱なのだ。  1年に一度の日本の行事。  御先祖様たちが年に一度くらいは帰ってこられるように忘れないでやってあげたいものだ。 【了】            
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