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「のどか」
「しげちゃん、何?」
「先生になろうが、そうして緩く“気が向いたら”って言えるくらいでいろよ。今のは本来、その何とか商会の気が向いたらっていうところだろうが、のどかの気が向いたらでええ」
何とかで…商店を商会って、数秒前のことひとつも覚えてないのか…
「うん」
「ずっとここで大酒飲んで、上でじゃらじゃらいわせて、それでも仕事に真面目なのはよく知ってる」
「その通り、皆が知ってる」
チョウさんが奏多くんを武本先生にパスしながら相づちをうつ。
「先生と呼ばれて仕事を頼まれりゃ、ますますええ加減なことは出来んだろうからな、他は手を抜いていかんと」
「そうね、結婚もしたら“奥さん”っていう肩書きも増えることだしね」
「手抜きは得意分野だよ」
「アリちゃん、マジでここの娘なんだね。今の返事がさ“はい”とか“ありがとう”じゃなくて、親に言う“わかってるって”の変形バージョンだ」
「うーん、ふつー」
「普通だな、和花」
藤司が私の頭をそっと撫でてから
「このすずめ屋で、こうしてリラックスしている和花を見つけたんだよ、俺」
と言うと
「とーじのええ男ぶりが分かる話だな」
と、何故かしげちゃんが少し大きな声で言い、上機嫌のおっちゃんと同じく上機嫌のチョウさんと乾杯している。
「いい雰囲気だね、ここ。ところで、すずめ屋っていうのは麻雀の“雀”っていう漢字から?」
「え、聡美さん…そうなの?」
「いやいや、初めて来た私が聞いてるんだけど…」
「知らない…気にしたことがなかった。最初からすずめ屋だったから…」
ここで皆が声を上げて笑ったから、私と奏多くんがビクッとした。
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