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ここの緩い食事もいつものことで、うちの家族は全員ちょっと緩いのが標準なのだと思う。
お母さんも座るから、今日のご飯はこんなものかと思いつつ食べ始めても、途中でピッピッ…とレンジが鳴ってお母さんが立って、ホイル焼きの登場。
「ごちそうだねぇ」
冷凍ボイルホタテ、ベーコン、アスパラ、ミニトマトのホイル焼きをお母さんが開けてくれる隣で、今度はお父さんが立って
「冷や奴、食べる人〜いるかぁ?」
と聞いてくる。要するに…最初から整った食卓とは無縁、誰かがポツポツと立つのが普通なんだ。
「テツ、忙しい?」
「まあまあ。週2くらいで残業してる」
「まあまあだね」
「今度TOEIC、強制受験の刑」
「ああ、定期的にあるんだね」
「迷うなぁ…」
「わかる」
「何が“迷う”に“わかる”よ。普通に受けたらいいでしょ?」
お母さんはそう言うけどテツ…弟の哲也は海外赴任がイヤなんだよ。勉強は出来てしまうから、TOEICの点数をそこそこ止まりにしたいけど、査定や昇進に響くからどうしようかと迷っているのだ。
「海外赴任の一番近くにいる、独身社員だよね」
「そう。それで兄ちゃんも行っただろ?結婚するか…」
「誰と?」
「誰としようかな…」
「あははっ…選べるように聞こえるけど、探すところから?」
「のんちゃんもだろ?」
「私は願望がないもの」
「どこか頼りない二人の会話だな」
そう言うお父さんは笑っているが、お母さんは呆れ顔だ。
「隣のケンちゃんは帰って来たのよ。異動だって」
隣のケンちゃん…兄の同級生で私たちの幼なじみ。そして私が長年淡い片思いをしていた相手だ。
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