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「最悪……」
「最悪、とは?」
南田さんが最悪って言うのはおかしくない?
「事務所の仕事と顧客を守ること。和花がこれまで以上の日常を手に入れること。その2点を武本と緻密に相談してこの結論に至った。俺たちの最善が南田の言う最悪な状況は、自分が招いたんだ」
「この結論を伝える前に示談書に署名っていうことまでシュミレーションした、僕たちの完璧なシナリオ」
「二人で嵌めたのね?」
「おいおいおいおい、もうコイツ無理だな…これを嵌めたなんて言うのかよ…自分のしたこと考えろよ」
と背もたれに身を投げた武本先生に続いて、藤司も嫌悪感を露にした。
「今後、このあたりで同じ職につけるかはわからないが…今日このまま出て行ってくれ」
彼の言葉にスッと立ち上がった南田さんは、すぐに奥のデスクに向かう。
「資格があるから仕事はあるでしょ?」
私は藤司と武本先生をキョロキョロと見る。
「今日の対応次第で俺たちのやり方は違ってきたんだが…」
「想定外の悪態をついたヤツに、僕たちは容赦しないよ」
容赦しないと言ってももう関わりを持たないんじゃないの?首を傾げた私の頭の撫でた藤司が
「俺たちの仕事は縦にも横にも繋がりがある」
と教えてくれた。
「さっきの邦子先生なんかは横の繋がり。僕たちの仕事は弁護士なら出来ることなんだけど、邦子先生のような個人事務所で手がいっぱいの時にはここを紹介してくれるし、僕たちの顧客に弁護士が必要なら邦子先生とか、数人の弁護士を紹介する」
武本先生の説明も分かりやすい。
「縦は先輩、後輩。税理士になるには2年の実務経験が必須だから、そういう新人を受け入れる先生の情報なんかは広く共有するんだ」
「だから、僕たちの事務所体制が変わったことについてあちこちで質問を受けると“信頼関係が維持出来ない事情で”と答えるわけ。そしたらどうなると思う?出ていった者の分が悪いよね。分かる?有田和花ちゃん?」
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