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象の夢
錆びた鉄格子の奥、悪臭の漂う空間には襤褸を纏った何人もの浮浪者が詰め込まれていた。天井からは汚水が垂れ、床の上を丸々と太った鼠やゴキブリが走り回っている。光も差さない留置場はまるでアヘン窟、この世の地獄に見えた。
地面に横たわる浮浪者達の中に、歪な二つの影があった。その影は小さくなったキャンドルの微かな灯りで聖書を読んでいた。
「トーマス・ハミルトン。サミュエル・ハミルトン。聞こえるなら返事をしてくれ」シド・クレイは鉄格子の間から呼びかけた。「僕はシド・クレイ。ロンドンで新聞記者をしている。事件の話を聞かせてくれないか」
不意に蝋燭の火が消えた。黒い二つの影が動き、足枷を引き摺りながらこちらに近付いてくる気配がする。シドは息を飲み、手持ちランプに火を点けた。
灯りの中に現れたのは、白に近い金髪、藍玉のような青い瞳をした二人の男だった。小柄な二つの上半身が腰の辺りで結合し、下半身は完全に同化して一人の人間となっていた。
「帰ってくれ。何も話す事は無い」トーマス――トムはそう言い、ぶっきら棒に手を振った。
「トムがすみません」サミュエル――サムはそう言い、片割れに厳しい視線を送った。「こいつは礼儀というものを知らないのです」
「連絡もなく取材に来るのも礼儀知らずだと思うがね」トムはそう言い、露悪的な表情を浮かべた。「どうせ、事件を面白可笑しくするつもりだろう」
「そんな考えは無いよ」シドはそう断言した。「僕は真実を明らかにしたいだけだ」
「真実だって?」トムは馬鹿にしたように笑った。
「知りたいんだ。どうして事件が起きたのか」シドは言い、外套のポケットからメモ用紙を取り出した。「二人の内、どちらがサーカスの団長を殺したのか」
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