8人が本棚に入れています
本棚に追加
事件が起きたのは一九〇二年、十一月十日。イギリスの片田舎、ベンパーミルで興行を打っていたサーカスの団長――カイル・アズが小屋の中で撲殺死体となって発見された。出演者の一人が、小屋から走り去って行くトムとサムの後ろ姿を目撃した事から、警察は彼等を直ちに拘束した。だが鑑識の結果、意外な事実が明らかとなった。
犯行現場には犯人の痕跡が残されていたが、それは一人分のみで、第三者の形跡は見られなかった。状況証拠から兄弟がアズを殺害したのは明らかだが、どちらが実行犯なのか判明せず、捜査は暗礁に乗りあげていた。
「真実も何も、犯人はサムの野郎だ」トムはそう言い、鉄格子に顔を近づけた。「こいつが俺の飲み物に睡眠薬を入れて、朝まで意識を失わせたんだ」
「薬を入れたのはこいつです」サムは間髪入れずにそう言った。「朝まで寝ていたのは僕の方だ。寝ている間にこいつがアズを殺したに違いありません」
警察の取り調べでは自分こそが薬を盛られ、眠っている内に事件が起きたのだと主張していた。拘留中にも互いへの憎悪を剥き出しにし、対話も出来ない程だったという。
「一体、どこに真実がある?」
「真実を知りたいなら、あの場所に行くといい」トムは言い、試すような視線を向けた。「事件現場になったサーカスに。いや、俺達の飼育小屋へな」
最初のコメントを投稿しよう!