リコリスの星

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「やあ、こんばんは。今日はめでたい日だねぇ〜。君たちに、とっておきのプレゼントを用意してきたよ」  漆黒の髪に同じくらい濃い色の服。骸骨の仮面をつけた人物が、ふわりと部屋へ入ってきた。  叫び声をあげようとしたけど、なぜか声が出ない。震える私の手を、星良がギュッと握ってくれる。 「こんなの、悪い夢だよ。じゃなきゃ、四階のベランダから人が来るわけない」  黒づくめの男らしき人物は、一歩踏み寄り私たちの前で腰を屈めた。そして、自分のことを死神だと名乗った。 「これから君たちに、運命の選択肢をやろう。選ばれた者だけが見ることのできる世界だ。さあ、赤と黒どっちがいい?」  ふたつの花を見せられて、どちらかを手に取れと迫られる。彼岸花と黒い百合。  状況の把握もできなくて、私たちはただ怯えていた。 「……わかんない」 「誰か、助けて。お母さん……」 「どちらか選ぶんだ。これは、君たちに課せられた宿命。時間がないぞ? どうする? 俺が決めることになるが、後悔はないか?」  黒づくめの男が、楽しそうに高笑いをする光景は異常だ。  これが、十五歳の少女たちに突きつけられた現実とは、到底思えない。 「……私は、黒を選ぶよ」 「星良⁉︎」  しばらくの沈黙を破って、星良が百合を取った。 「ごめん、月架。選ばないと、ヤバい気がして。とりあえず、選べばどうにかなるのかなって」 「では、必然的に、ツキカが赤だ」  半ば強制的に彼岸花を持たされて、私たちはそれぞれの光に包まれる。あまりのまぶしさと熱さに目を閉じた。  それでも、この繋いだ手だけは死んでも離さないと、お互いに強く思っていただろう。  次に瞼を持ち上げたときには、もう星良の姿はなかった。
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