リコリスの星

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 天界には、時間が存在しない。ずっと同じ時が流れていて、年を重ねることもない。  そう気づいたのは、一年ほど経ったある日のこと。私の体感での時間だから、もしかしたら数日しか経過していないのかもしれない。  いつものように鏡の前に立っていると、世界を映す鏡面が揺れた。そこに現れたのは、あの頃と変わらない星良だった。 「星良!」 「やった、繋がった! 月架、無事?」 「大丈夫。星良は? なんともない? どこにいるの?」 「……よかったぁ、元気そうで。私も平気」  久しぶりに声が聞けて、胸の奥が熱くなる。突然、離れ離れになって、心細かったからなおさら。  星良の背景には、黒い百合がたくさんある。場所を特定したところで、会える可能性は低いけど。 「よく聞いて。もうすぐ、世界が終わる。月架は、早くそこから逃げて」  あらあらしく投げ出されたセリフに、思考が追いつかない。 「なに……言ってるの?」 「もう時間がない。こっちの連中は、世界を滅ぼそうとしてる」  後ろから、侍女たちの騒がしい声が飛んでくる。 『なにをしているのか』『鏡を閉じて』と慌てふためいているけど、そんなことどうでもよかった。  ずっと会いたかった星良が、目の前にいるのだから。 「星良、待ってよ。出られないよ。それに、私は天の守護神で……」 「おやめください! ツキカ様……!」 「月架、また、通信する」  両腕を引っ張られ、身動きがとれない私に向かって、星良は優しく笑ったの。 「最後は、一緒にいよう」  それだけ言い残して、鏡面は元の色へと戻った。  もう二度と、星良が映ることはなかった。
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