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「久しぶりだね、ツキカ」
夜の帳を下ろして、星良が現れる。一瞬にして、空気が変わったのがわかった。
「今日、世界は終わる」
「それ……本気で言ってるの?」
曇りない瞳の中に、私はいない。
「ツキカが天の力となったように、私は地の力になるの。これが運命なら、そうするしかない。そうでしょ?」
地の神として迎えられた星良は、染まるしかなかったんだ。あの時の私と、同じように。
黒い百合を手に持ち、星良がひと振りすると、辺りは漆黒に包まれていく。枯れて朽ちていくように、街の光が消えていく。
「セイラ、私も覚悟を決めてきたの。一緒に、帰ろう? 私たちの世界へ。あの時の、私たちに」
胸から彼岸花を取り出すと、天界にある鏡が現れた。ここには、世界のすべてが詰まっている。
時間のない空間。時を戻すこともできるはず。
「その選択は、正しくないよ。ツキカ、正しい答えは、こうだよ」
最後の一本の黒い百合で、星良は自分の胸を突いた。
嘆きにも似た声で、私が名前を叫ぶと、胸の中心からじわりと黒い血が流れていく。
体に触れるより先に、星良は塵となり消えた。
地の神を失った世界は、光を取り戻し始めた。
これで世界は救われる。侍女たちは、喜びをあらわにしていたけれど、私だけは違う。
星良の最後は、世界を救おうとする涙の笑顔だった。
気づいたら、私は天の鏡を割っていた。
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