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あれから、何度も同じ時を繰り返している。どれだけやり直しても、死神はやってくる。
選択を変えても、世界の終わりは変えられない。
星良を守ることがーー、できない。
だから、私は鏡を壊して、鏡の向こうへ飛び込んだ。胸を黒く染める前に、星良を連れて。
何億もの光が流れるように、意識が引き戻される。
中学校の教室。『世界の終わり』と書かれた黒板。目の前には、制服姿の星良が座っていて、コロンとシャーペンが転がっていた。
この空間だけ、時間が止まっていたかのように息ができない。
「……星良ちゃん? 宵野さんも、どうして、泣いてるの?」
瞬きすると、たまっていた涙がポロリと落ちた。
今は、何度目の過去なのだろう。
それすら確かめることはできないけど、私たちはそれぞれの席で、前に向き直る。
すべてを思い出した時、ノートを書く手が震えた。それは、となりの暁さんも同じ。
「まあ、世界の終わりとかさ、非現実的な話されても、ピンと来ないよな」
「ないって分かってるから、こんな話ができるんじゃない」
この世界線は、平和だ。あくまでも、今は滅亡とはかけ離れたところにいる。
私が時を巻き戻して、生まれる前に遡ったから。運命を変えたから。
星良と仲良くなる道を捨てて、二度と同じ悲しみが訪れることのないよう。
「……やっぱ、地球最後の日は友達と一緒にいたいかな」
授業の終わりに、暁さんがつぶやいた。
「星良ちゃん、急にどうしたの? 気が変わったん?」
「うーん、なんとなく。今はただ、そう思っただけ」
アハハと冗談っぽく笑うと、私を見て。
「宵野さんは、どう思う?」
ふいに話を振られて、動揺する。以前の私なら、一人で静かに過ごすのが一番だと考えていたけど。
「……私も、賛同する。大切な人を守りたいなら、一緒にいないとね」
見つめ合う瞳の中には、私がいた。
フッと笑って、暁さんは市原さんのところへ向かう。楽しそうにする横顔に、小さく笑みがこぼれた。
後れ毛を耳にかけて、引き出しから本を取り出す。
「これで、よかったんだね。星良」
開いた本のページから、挟んでいたしおりが落ちた。
まるで、あの日見た夕焼け空のような、彼岸花がーー。
fin.
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