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気づいたら、薄闇のなかにいた。
視界の先に明るい場所があって、光に呑みこまれる前に朔のことを考えた。
あの日外出したことは、ふたりだけの秘密のままだ。でも朔のことだから、あんな風に私のわがままを聞き入れてしまったことを、きっと悔やんでいるだろう。
(最後の最後に、朔に会いたい)
そう思った瞬間、体が移動するのが分かった。私の訃報を聞いたのか、朔は自分の部屋でかなしみに打ちひしがれていた。
私は朔が眠るのを待った。夢のなかなら――ほんのわずかなあいだ、最後に会うことができると、私は感覚で知っていた。
いつのまにか、私は公園の丘の上にいた。
これが朔と言葉を交わす、最後のチャンスだと直感する。
「きれいだね」
朔のつぶやく声がする。
天上ではいくつもの星が流れ落ちている。朔は微笑んだまま、私の手を握っていた。その手は夢のなかなのに確かな体温が宿っていて、私の胸は苦しくなる。
「うん」
と、隣でうなずいた。もう終わると知っているのに、この夢がずっといつまでも続けばいいと思いながら。
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