最後に流れ落ちる星

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 ハッと気づいたら、薄闇のなかにいた。  そこがどこなのか、考えなくても私は分かっていた。視界の先に、明るい場所がある。少しだけ目を閉じてみる。心のなかで、薄れない記憶がまたたくのを感じた。  あの夜、あの一瞬。目の前で流れ落ちた星のこと。光に呑みこまれる前に、私はもう一度君に会いに行けたらと(こいねが)う。 * 「流星群?」  虚を突かれたように顔をあげた(さく)に、私は真剣な顔でうなずいた。 「一緒に見に行こうよ、今夜」  ペルセウス座流星群。あまりにも有名な三大流星群のひとつ。 それが今夜極大になることを、私はすでに知っていた。 「結菜(ゆいな)、星なんて好きだったっけ」 「一回見てみたかったんだ」  なるべく何でもないように言う。まるで逡巡するように、朔の瞳が揺れるのが分かる。そんなことして大丈夫? そう言われてしまう前に、 「外出許可、取ってあるから」  先回りして私は言った。  本当は消灯を過ぎたあとの外出は禁止されているけど、外に出られないわけじゃない。  殺風景な病室のなか、 「分かった」  朔が了承してくれて、私は胸をなでおろす。 ダメと言われたら、どんな手段を使っても押しきろうと思っていた。 (流星群を見る。今夜)  その気持ちは高揚となって、胸の底を熱くする。こんな気持ちは久しぶりだ。何も変わらない毎日のなかに灯った唯一の光。 「じゃあ、約束ね」  そう言って手を差しだすと、朔の手のひらが重なった。仕方ないな、と書いてある表情。 いつも私のわがままを受け入れてくれる朔の、困ったように笑う顔。それをずっと見ていたくて、私はしばらく目をそらせなかった。
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