ようやくわかった

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 昔、僕は変な子だったと思う。  周りの子供とは違う感性を持っていて、例えば図工の時間に「青空を書きましょう」とお題が出されれば、直線の地平線の端に糞を書き加えたり、ビー玉やおはじき全てに床や石で傷をつけていたりするような子だった。  つまり、100%綺麗なものの中に反対の何かが加わることで、より綺麗に見えると思っていた。  唯一それに共感してくれたのが彩女だった。彼女はよく食べ物をこぼしたり、口のまわりが汚れたままでも気にしないような子だった。容姿は愛らしく、当然僕も好きだった。何をするにもどこにいくにも一緒で、仲良しすぎる仲良しだった。  しかし、小学5年生の夏、僕は彩女を避けるようになった。  両家同伴で行った夏祭りで目に焼き付くほどの花火を見た。何十発と立て続けに打ち上げられた花火に彩女は両手を上げてぴょんぴょん跳ねていた。街灯の光で星があまり見えない夜空に、でかでかと轟音で咲いた花火が消えることなく残像としてなんとなく残って見えた。  そして、花火が終わった後、紅潮した彩女の頬とズレた襟元が目に入った。そこから覗く、赤くて真っすぐな線跡が僕を狂わせた。  花火は終わったはずなのに、身体中から轟音は消えず、視界もギラギラとしていて妙に明るい。夜なのに昼間の日射にさらされているようなちりちりとした違和感がある。  彩女の程よく焼けた褐色の肌と焼けていない白い肌の境目のさらに奥、街灯が照らせられない影の所にある、赤い跡。シャツの襟元で口を拭う癖があるからだろうか、少し伸びているゆえの想定外の露出。  その赤い跡から数センチ奥にあるヒモで何の跡かわかってしまった。防御力の低い彩女だから何度かは見たことがある、男子が必要としない下着。今までは何も感じなかったし、何も思わなかった。何なら小学4年生くらいから着け出したはずだから、もう1年以上も前から僕は見てきたはずだ。 「なんかかゆい」とぽりぽり鎖骨あたりをかきむしるところに目をやれば、蚊に刺されて膨れた跡と爪の赤い跡も加わった。  僕はそのとき初めて、彩女に欲情した。  なんとなくよくないこととして思ってきた性欲が急に降りかかってきた。今まで歩道を歩いていたのに、何かに突き飛ばされて道路に出てしまった感覚だった。その後も縁石の上を歩いているようで、時々道路に飛び出しては自己嫌悪に駆られた。  そうして葛藤を繰り返し、9月から1年後の卒業まで彩女を避け続けてしまった。さらには道徳と不道徳の間で揺れ動いていた僕は、すべてを断ち切って楽になるために何も言わずに中学受験をした。
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