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「これも演奏停止して」
はやくとせかしてくる。まだ歌ってもいないのに。さっきからよくわからない。昔はあんなにも素直でわかりやすかったのに、成長するって小難しくなることなのかと思う。
そんなことを考えていると彩女は僕の隣にやってきて横からJOYPADの演奏停止ボタンを押して、またひったくってくる。次の曲はRADWINPSの『ふたりごと』だった。
「……藤悟さ、覚えてる?」
訊き返しても返答はなく、しかも彩女は曲が始まっても歌いださなかった。両手でマイクを持って、じっと画面を見つめて微動だにしない。僕はそれをただ見上げていて、彩女が言ったことの記憶を探すほかなかった。
「『「時」に嘘つかせないで、あの日二人交わした約束を今につなぎとめる光が今の君なの』」
急に歌い出した。そしてまた黙る。
何がしたいんだ。それに昔の記憶なんて探しても僕がふたりごとを知ったのは小学生の時ではないし、カラオケにだって一緒に行ったことない。
「『僕と書いて「愛」と読もう、そうすりゃ離れそうもないでしょ、いつかそんな歌作るよ』」
「愛」にドキッとする。それにまた途中から歌って途中で歌うのをやめる。ただの悪ふざけとも取れない表情で僕の方は一切見ない。ただただ何かを待っているかのように待ちぼうけている。
「『君と僕とが出会えた奇跡を信じてみたいんだ、君と僕が出会えたことが奇跡だろうとなんだろうとただありがとう、君は言う奇跡だから美しいんだね素敵なんだね』」
最後の最後でまた歌って曲は終了する。そして僕の方を見て「奇跡なんだよ、藤悟」と。
泣きそうな顔しないでくれ。
僕が悪いのはわかっている。許してくれとも理解してくれとも僕からは言えない、言う権利はない。だからこうやって受け身でいつか彩女から恨みを晴らしに来てくれることを願ったし切望した。そんな情けないやつが僕だ。
「……思い出したよ、昔やっていたこと」
だから、僕は思いついた曲を送信する。画面にはASIAN KUNG-FU GENERATIONの『リライト』が表示される。たぶん、こういうことだ。
曲が始まる。マイクを取って立ち上がる。対して彩女は座る。じっと僕を見つめる視線を感じた。
歌詞で、曲名で自分の本音を伝える。これは主にケンカしたときにやっていたことだった。
音楽なんてあんまり知識がないから、違う種類の音がリズムに乗ってドンチャカしているだけに聞こえるけど、上手く説明なんかできないけど、こういうことだとだと信じる。
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