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季節は巡り、再び秋が訪れた。
赤トンボを見れば思い出す、キュアヒルのこと。
亘が事故に遭い、助けられたあの日から、航はずっと痛みを負っている。
それは彼の心の中。彼女と会えなくなってついた傷。
「こら亘、ちゃんと歩けっ」
「歩いてるようるさいなー」
「歩いてないから言ってんの」
朝の通学路。亘と並んで歩く畑道。東の空で浮かぶ真っ白な太陽が眩しくて、目を細めていたら。
「あれ?誰かいる」
と亘が言ったので、航は思わず立ち止まった。
朝陽を背に受けながら佇む、自分と同い年くらいの女の子。
その子はスタスタと真っ直ぐこちらへやって来ると、航と亘の前で足を止める。
身体は白く、どちらかと言えば華奢な方。瞳はブルーで、茶色い髪の毛には軽くウェーブがかかっている。
逆光ではあるが、確認できたその容姿。
茜色ではない空の下で会えた愛しき人に、航は感極まった。そして次の瞬間、彼の心は薬が施されたように、痛みがすうっと治まった。
きょとんとする亘。
泣きそうな航。
そして微笑むのは、もちろん彼女だ。
君の名前ってもしかして。
そう聞く前に、彼女はあの歌を口ずさむ。
「キュアヒルドレミッ。キュアヒルリペアッ。あなたとまた会えて、嬉しいわ」
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