キュアヒル

16/16
前へ
/16ページ
次へ
 季節は巡り、再び秋が訪れた。  赤トンボを見れば思い出す、キュアヒルのこと。  亘が事故に遭い、助けられたあの日から、航はずっと痛みを負っている。  それは彼の心の中。彼女と会えなくなってついた傷。 「こら亘、ちゃんと歩けっ」 「歩いてるようるさいなー」 「歩いてないから言ってんの」  朝の通学路。亘と並んで歩く畑道。東の空で浮かぶ真っ白な太陽が眩しくて、目を細めていたら。 「あれ?誰かいる」  と亘が言ったので、航は思わず立ち止まった。  朝陽を背に受けながら佇む、自分と同い年くらいの女の子。  その子はスタスタと真っ直ぐこちらへやって来ると、航と亘の前で足を止める。  身体は白く、どちらかと言えば華奢な方。瞳はブルーで、茶色い髪の毛には軽くウェーブがかかっている。  逆光ではあるが、確認できたその容姿。  茜色ではない空の下で会えた愛しき人に、航は感極まった。そして次の瞬間、彼の心は薬が施されたように、痛みがすうっと治まった。  きょとんとする亘。  泣きそうな航。  そして微笑むのは、もちろん彼女だ。  君の名前ってもしかして。  そう聞く前に、彼女はあの歌を口ずさむ。 「キュアヒルドレミッ。キュアヒルリペアッ。あなたとまた会えて、嬉しいわ」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加