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その言葉で、航は目を凝らす。すると確かに見えた、白いもの。
頭の中、昆虫図鑑をぱらぱらと捲った航は、その中でも一番これに近いかな、と思った虫の名前を取り出した。
「シオヤトンボじゃない?」
ちょっと季節が違うけど。
そう気に掛かりながらも、それ以外も思い浮かばない。
一方、先ほど横へ振った首を斜めに傾けた祖父は、うーんと納得がいかない様子だ。
「じいちゃんには、トンボに見えないんだがねえ」
「じゃあ、なんだろ」
「はて。なんじゃろうか」
「……」
「……」
しばらく間が空いて、暮れなずむ村の静けさに包まれるふたり。
トントンとその間も腰へリズムを送り続ける祖父の元へ、その得体の知れないものが降りてきた。
「キュアヒルドレミッ。キュアヒルリペアッ。あら?おじいさんったら、腰が痛いの?」
これはシオヤトンボじゃない。
そう航に確信させたのは、人間じみた鳴き声だ。
「キュアヒルドレミッ。キュアヒルリペアッ」
パタパタと羽を動かしながら、それは祖父の目の前までやって来た。
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