キュアヒル

7/16
前へ
/16ページ
次へ
 翌朝の通学路。「早く兄ちゃん!妖精呼んでよ早く早く!」と急かす亘に「待て」と言い、航は故意に転んで血を流す。 「……なにやってんの、兄ちゃん。今のわざと?」 「まあ黙って見ててよ。ぼくはこれで、痛みを負ったから」  詳しい説明は後まわし。  航はとにかく一刻も早く、亘にあの妖精の姿を見せたかったのだ。 「キュアヒルー!」  今日は快晴。雲ひとつない青空に向かって、大きく叫ぶ。 「足を怪我したぞー!手当てしてくれよキュアヒルー!」  キュアヒルー  キュアヒルー  キュアヒルー  しかし焦れるのは、自分の声が木霊するだけだから。  あれ、おかしいな。キュアヒルって名前を呼べば、来てくれるはずなのに……  二度、三度と再チャレンジしてみるが、結果は変わらず。  段々とジト目になってきた亘の隣で、航は昨日のことはやはり白昼夢だったのかと肩を落とした。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加