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放課後の空は、昨日と同じ茜色。畑道で赤トンボを見てしまえば、頭に巡るのは信じがたいあの光景。
もう一度だけ、もう一度だけ呼んでみよう。これでだめだったら、キュアヒルはぼくが作った想像上の妖精だったんだ。
辺りをきょろきょろ見渡して、ひと気がないことを確認する。口へ運んだ指をかりっと噛めば、じんわりと血が滲んでいく。
よおし、呼ぶぞっ。
こほんと咳を払ってから、航は空に向かって大声を出した。
「キュアヒルーーーー!!」
夕陽を睨むようにして、キュアヒルの登場をじっと待つ。そんなことはどこ吹く風の赤トンボが数匹、航の面前を行き交った時だった。
「キュアヒルドレミッ。キュアヒルリペアッ」
彼女がついに、現れた。
「あら、昨日のあなたじゃない。どうしちゃったのよその指、痛そうねえ。今すぐ治してあげるわ」
茜色の空から航の目の前まで降りてきたキュアヒルは、昨日と同じように自身の脇腹から取り出した包帯を、口先で切る。
「キュアヒルドレミッ。キュアヒルリペアッ」
それを航の指へ巻きつけている間はずっと、歌うように口ずさむ。
「キュアヒルドレミッ。キュアヒルリペアッ。治れ治れ〜」
指のまわりで舞う彼女は、とても楽しそうだった。
最後に切れ端を上手に結ぶ彼女は、航の目に可憐に映った。
昨日よりも間近で見れば、うかがえるのは彼女の美貌。
トクンと胸元で鳴った音が何だとは、まだ恋を知らない航にはわからないことだった。
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