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「はい!これでじきに治るからねっ」
「あ、ありがとう」
「じゃあ、また」
「あ!待って!」
傷の処置をし終えたキュアヒルが背を向けたことに慌てた航は、咄嗟に彼女を呼び止めた。
空中で振り向いたキュアヒルの茶色い髪の毛が、さらりと靡く。
「なあに?」
「あ、いやそのっ」
「?」
なにを言おう、なにを聞こう。
それは全くもって決めていなかった航。けれど似た状況にもかかわらず、今朝は会えなかったことを思い出せば、口からこんな疑問符が抜けていった。
「どうして朝は、来てくれなかったの?」
「え?朝?」
「ぼく、朝も怪我してっ。何度も君のこと呼んだんだけどっ」
ふたりきりでの会話に、航はなんだか少し緊張した。対してキュアヒルはのほほんと、そんな彼の肩に降り立った。
「そっか。言うの忘れてたわね。わたし、夕方しかこの辺にはいられないのよ」
航の肩にちょこんと座り、足をぷらぷらさせるキュアヒル。
互いが互いの目を見て話そうとすれば、自然と顔の距離は近くなる。
ドキドキと、速まる鼓動。航はそこに手をあてた。
「どうして夕方しかいられないの?」
「だって、ここから遠く離れたみんなの傷も、治してあげなきゃいけないし」
「あげなきゃいけない?」
「わたしの体ってね、おくすりでできているんだけど、わたしの任務はこの体を使って、みんなを助けてあげることなの。この体から生み出す魔法の包帯には強大な治癒力があるから、それでどんな傷や痛みも治っちゃうのよ」
ふうんとひとつ相槌をうち、「どうして?」と聞く航。
「どうしてそれが、君の任務なの?」
「まあ、任務っていうよりかは修行ね」
「修行?」
「無事にこの役目を果たした時、わたしは憧れだった人間になれるのよ」
あなたみたいなね、と指先で鼻を突かれて、航の顔が熱くなる。
そんな彼のさまを見て、キュアヒルの胸もトクンと鳴った。
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