溶けて蕩けて、溺れてく。

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「俺、だいぶ痛み引いてきたし、なんか手伝うよ。ずっと一人で待ってるもの寂しいしさ。」 「そう?それじゃあとりあえず…鍋に水を入れて、お湯を沸かしてくれる?水はお鍋の八分目くらいまで入れて欲しい。」 「分かったっ。」 十四郎に一部作業を手伝ってもらうことにした雪乃。彼の横で、彼女は別の作業を進めていた。その途中、十四郎に”適量の塩”を鍋に入れるように伝えたのだが…。 「なぁ雪乃〜、適量ってどのくらい?とりあえず今、大スプーン?10杯分くらいは入れたんだけど…。」 「あ〜大スプーン10杯分ねぇ…って、えっ!?10杯分っ…大スプーン?!それ入れすぎだよ十四郎くんっ!小さじ1杯くらいでいいのっ…。」 「えっ…そうなの?!味付けするために塩入れるんじゃないのっ?」 雪乃は十四郎のその言葉に驚き、彼の方を勢いよく振り向いた。そして今も尚、彼は鍋を見つめながら塩を追加している。 「ストップ、ストォーープッ…!味付けって言っても、パスタソースと絡めた時により美味しくするための下味程度でいいのっ。そもそも味付けのために大スプーン10杯分いれるなんて、どんな料理を作るにしても塩辛くて食べられないよっ!」 (こっ…これは…料理を任せてはいけないレベルだ…十四郎くんはほんとに料理が苦手なんだっ…!) 雪乃は、彼の”とんでもない行動”に絶句した。そして十四郎に気づかれぬよう、台所の端で頭を抱えていた。彼はその様子に気づくことなく、「小さじ1杯か…大スプーン使うとなると、どのくらいなんだろ…うーん。」と独り言を呟いていた。 ──それから40分程が経過し…。 「よーしっ…ナポリタン、遂に完成でーす!」 「おぉ〜雪乃凄いなっ…イタリアンの店のクオリティじゃんっ…そして…めちゃくちゃ美味しそう…!」 「ふふっ、ありがとう。よし…温かい内に一緒に食べよ!」 「うんっ!」 あの後、結局は雪乃一人で作業を進めた。雪乃にばかり任せていては申し訳ないと言いい、”俺も手伝う”と(かたく)なな十四郎だったが、どうにかこうにか言葉をはぐらかし、彼には食器類の準備を任せたのだった。そして二人はようやく席に着き、口を揃えて「いただきま〜す。」『いただきまーすっ!』と言った。 そして…。 「うん、おいひー!」「んん〜〜!めちゃくちゃおいひぃー!」と、満面の笑みを向け合った。 二人は暫くの間、ナポリタンを心ゆくまで堪能した。
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