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──時刻は10:15を回っていた。
チリリンッとベルの音が鳴ったと同時にお店のドアが開き、雪乃はそちらへと視線を向ける。
「いらっしゃいませ〜...あっ、菊池さんこんにちは。火曜日にいらっしゃるの珍しいですね。」
「あら〜雪乃ちゃんこんにちは。そうなの、今日は旦那に頼まれてたことがあってね。近くまで来たから立ち寄ったのよ。」
本日のお客1人目は、常連客である菊池さんだった。この店は2人掛けのテーブル席が2つとカウンター席が4つの、合わせて8座席しかない。その為、1人で来店するお客が比較的多い。街の中心から少し離れた裏路地に店を構えていて、顔見知りの常連客が8割を締めているこじまんりとしたカフェなのだ。
「いつもの席でいいかしら?」
菊池さんは慣れた様子で窓際のカウンター席へと足を進めた。カウンター席の1番奥、壁側の席が菊池さんのお気に入りの席。コーヒーを片手に読書をしながら度々外を眺める、それが彼女の店内でのくつろぎ方である。
菊池さんがいつもの席に座ったことを確認し、その後少しばかり時間を置いてからお冷を席まで運んだ。
「お冷をどうぞ。本日のメニューはいかがされますか?」
「いつものでお願いできるかしら?」
「かしこまりました。ケーキの種類も、いつものチーズケーキで宜しかったでしょうか?」
「ええ、それでお願いするわ。」
全てとは言えないが、常連客であれば大抵は ”いつもの ”で注文を受けている。
どのお客が何を好んで注文しているのか、雪乃は日々忘れないようメモをチェックして暗記しているのだ。
菊池さんが来店して約20分後、今度は別の常連客が訪れた。名前は知らないが、60代半ばくらいの物静かな男性だ。その人はいつも、【健康生活】と書かれたノートを持参し、諸々書き込んでは今まで書き溜めたページを読み返している。
──時刻は10:55頃。
来店から40分ほど経った時、菊池さんは席から立ち上がりレジにて会計を済ませた。
「雪乃ちゃん、今日も美味しいコーヒーとチーズケーキありがとうね。また来るわ。」
ひらひらと手を振る菊池さんの後ろ姿を見送った。
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