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2人の微熱。
──数日後。
十四郎に助けられて以来、ストーカー被害が起こることはなく平穏な日常を送っていた。そして今日もまた、雪乃は仕事を無事に終え、広瀬と共に駅を目指す。
(あれから約2週間…ストーカー被害も特にないし、そろそろ伝えてもいい頃かなぁ…。)
「…二礼さんさ、なんか最近、楽しそうだよね。」
雪乃が考え事をしていたその時、広瀬は口を開き、そう一言呟いた。
「えっ…?そ…そうですか?まぁ…あれからストーカー被害も特になく、以前と同じ平和な日常が戻ってきたから…かもしれないですね。広瀬さんのボディーガードも心強いですし!いつもありがとうございます…。」
雪乃は改めて、感謝の意を伝えた。
すると彼は、足を止めた。
雪乃はそれに気がつき、自身も足を止める。
「そうかな…俺には、それだけには見えないけどね。なんか他にあったでしょ、嬉しいこと。例えば……そうだな、じゅーしろうと仲良くなった、とか。」
広瀬の唐突なその言葉に、雪乃はつい、素っ頓狂な声を出してしまった。
「ふぇっ……!?あっ…え〜とっ…その…。」
「ごめん…俺さ、結構ネチネチした性格だから。諦め悪いんだよ。」
「…広瀬…さん?あの…それってどういう…。」
数秒ほど、沈黙が流れた。
そして…広瀬はゆっくりと雪乃へと手を伸ばし…。
「ふっ…二礼さん、落ち葉ついてるよ。ほら…。」
雪乃の髪についた落ち葉を取り除いた。
「あっ…ほんとだ!すみません…ありがとうございます、付いてることに全然気が付かなくて…恥ずかしいです…へへっ。」
「…二礼さん…好きだよ…。」
その瞬間、取り除いた落ち葉が広瀬の手を離れ、風に吹かれて舞った。
──駅前に到着した2人は、別れ際の挨拶を交わす。
「あのっ…広瀬さん、さっきのこと…なんですけど…。」
「あ〜…二礼さんは気にしなくていいから、さっきのことは忘れて。ただ、俺が言いたかっただけだからさ。それに、二礼さんの困ることはしたくないし…あいつのことが好きなんだろうなって…見てれば分かるからさ。」
眉を下げながらも軽く笑ってみせる広瀬。
どこか儚げな雰囲気を纏っている彼を、雪乃は無碍に扱うことなど出来るはずもなかった。
「広瀬さんが…私のことを大切に思って下さってること…純粋に嬉しいです、ありがとうございます…でも…自分の気持ちには嘘、付けないみたいです。私はやっぱり…そのっ…十四郎くんのことが…。」
雪乃が全てを話し終える直前、まるで最後の言葉をかき消すようにして、広瀬が言葉を重ねた。
「しっ…分かってるから、無理して言わなくてもいいよ。誠意を持って向き合ってくれる…そんな二礼さんだからこそ、俺は君のこと…好きになったんだ…。」
広瀬は雪乃の唇に人差し指をそっと当てた。
そして、首を少しばかり傾げながら、彼はまた優しく微笑んだ。
「それじゃ、また明日ね、お疲れ様。気をつけて帰ってね。」
「はっ…はいっ…お疲れ様ですっ…。」
広瀬が手を振る姿を背にして、雪乃は歩き出す。
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