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「はぁ〜〜…今日も1日が終了〜。ふぅ…疲れたなぁ…。」
風呂上がり、雪乃は髪の毛を乾かしベットへ勢いよくダイブする。うつ伏せになって枕を胸元で強く握り締めた後、今度はそれに顔を深く埋めてひとり唸った。
(明日から、どんな顔して広瀬さんと話せばいいんだろう…気にしないでと言われてもなぁ……時間が経てば元に戻れるかな…。)
その時、スマホから無機質な音が鳴った。
雪乃は埋めていた顔を上げてそれに視線を向ける。
画面を開くと、そこには1件の通知が入っていた。
「十四郎くんからだ…!」
雪乃は体を勢いよく起こし、ベッドの上に座り込んだ。そして、それに目を通す。
するとそこには…。
〔雪乃さん、お疲れ様です。話したいことがあるんですけど…このあと電話できませんか?〕
と、書かれていた。
「電話…なんだろ、珍しいなぁ。もしかして、再来週のデートのことかなっ…♪」
考えてもどうにもならない広瀬との事は一旦頭の片隅に置いておき、いまこの瞬間は十四郎のことに集中する。
〔大丈夫、電話できるよ〜。〕
と、返信した。
そして…。
「あっ…もしもし、十四郎くん?お疲れ様。話したいことがあるって…どうかしたの?」
十四郎との電話越しの会話についつい気持ちが湧き上がってしまう。しかしその気持ちが伝わってしまっては恥ずかしいと、胸が踊るのを抑えつつ平然を装いながら喋りかける。
「…あの…えっと……。」
しかし十四郎は、妙に言葉を詰まらせているようで…。
「ん…?どうか…したの?」
数秒ほどの沈黙の後、十四郎は話しを切り出した。
「今日の仕事帰り…駅の近くで雪乃さんをたまたま見かけたんスすけど……一緒に帰ってた男の人は…職場の人、ですよね?…以前も改札口付近でその人と話してるのを見かけたことがあって……雪乃さんは…あの人と…付き合ってるんですか?」
予想外のその言葉に、雪乃は一瞬戸惑ってしまった。瞬間、今日の帰り際の広瀬との会話が脳裏を過ぎる。
「ちっ…違うよ!付き合ってない…から。あっ、あのね、以前わたし、十四郎くんに助けてもらったでしょ?それで一応、店長さんにその件を伝えたの。そしたら…広瀬さんが暫くの間、駅まで送ってくれるって事になって…。」
雪乃は十四郎に誤解されぬよう、ひとつひとつ慎重に言葉を選び、ことの成り行きを説明した。
「なるほど…そういう事だったんスね。俺はもしかして…2人はそういう関係なのかなって思い込んでしまって…すみませんっ、俺ひとりで勘違いしてっ…こんな事で電話しちゃって…!」
「ぜっ…全然っ!気にしなくていいよ。」
「じゃあ……相手は雪乃さんのこと…そういう目で見てるって訳じゃないってことっスよね…?」
「えっ……あ…あぁ〜ないないっ…!その人、私だけじゃなくて店長さんにも優しいし、気が利く人なのっ。だから…善意の気持ちでそうしてくれてるだけだから…。」
(ごめん…十四郎くん…嘘ついちゃった…。でも、広瀬さんの事を考えたら…私の口から彼の思いを勝手に伝えるのは…良くない気がするし…。)
雪乃は、電話越しに聞こえぬよう、密かにため息をついた。広瀬の気持ちを汲み、そして十四郎にも不快な思いをさせないようにと、そう考えての嘘をついてしまったのだ。
「そっか…良かったっス…。あっ、それじゃあ雪乃さん…おやすみなさい。」
「うん、おやすみなさい…。」
雪乃が通話終了ボタンを押そうとした時だった。
「っ…あのっ…!雪乃さんっ…好き…ですっ…。おっ…おやすみなさいッス…!」
十四郎のその言葉が耳に入った瞬間、返事をする間もなくして通話は途切れてしまった。
〔だめだ……このままじゃだめ…。明日、ちゃんと広瀬さんに伝えよう…駅までの見送りはもう、必要ないですって…。〕
──心苦しい思いを胸に、雪乃は眠りについた。
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