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ⅩⅩⅤ章
何が起こったのか分からなかった。隣に居たはずの神城の姿は消え、視界に空想上の生き物が横切って行った。春名が神城が竜に連れ去られたと分かったのは数秒してからであった。
「神城……」
春名は呟くことしか出来なかった。
「一体、どうなっているんですか⁉」
桜の言葉に誰も何も答えられなかった。状況が分からないのである。
“異常が発生しました。直ちに退出してください“
と、繰り返しアナウンスが告げる。他の生徒はアプリでヴァーチャル・フィールドから現実に戻って行くが、神城を置いてなんていけない。
「あの竜が神城君を連れ去った。いや……」
志藤は言葉を止めた。竜は執拗に神城を攻撃している。もしこれがVウォーズなら神城のポイント切れで勝負は終わるはずだ。それが何も変わらない。
「あれは神城だけを狙っているな」
帰り際、志藤に映像のデータを渡そうと話し掛けて来た寺下が独り言のように呟いた。寺下の言う通り、竜は春名達のことは眼中にない。ただ繰り返し神城を攻撃している。竜は赤い鱗を持ち、大きな翼で飛行しながら足で神城を掴んでは地面に落としたり、噛まれたら一たまりもないような牙で威嚇している。目は何故だか神城に対し、憎しみを抱いているように見える。神城は成す術がないまま、竜の攻撃を受けている。もうこれ以上は見ていられない。
「由希也先輩から注意を逸らしてみます」
楓はそう言うと、弓矢で竜に向かって矢を放ったが、どんなものも貫通していた矢は竜の身体に届いたものの刺さることはなく消滅する。
「そんな……」
楓と共に居た音羽が悲嘆の声を上げる。
「透、ドラゴンが居るぞ。一匹、城に欲しい」
「格好良いですよね」
少し先で声がした。この緊急事態にも関わらず、吹奏楽部の工藤と写真部の宮藤は暢気に談笑している。
「透と魔王様じゃん。何してんだよ」
「おお、寺岡ではないか」
「寺下だって言ってんだろ」
寺下は怒りながらも、どうやら工藤の扱いには慣れているようで、
「魔王様、竜退治とかしたくないか」
「そんな面白いことに参加しないわけがないだろう」
寺下の提案に工藤は乗り気である。
「俺達、今攻撃されている神城を助けたいんだ。たぶん、あの竜を何とかしないと神城を助けられない」
春名は工藤に訴えかけると、
「なるほど。ドラゴンの怒りを買ったわけか……」
工藤は意味深に呟いた。
「よかろう。魔王が手を貸してやろう」
「僕も手伝います」
工藤の横に居た透も加わる。
「ただし作戦の指揮は魔王が執る」
「分かった」
すると、春名達の前に和服姿の女子が現れた。
「先輩⁉」
春名の代わりに桜が驚きの声を上げる。こちらにやって来たのは茶道部の八乙女椿である。刹那、竜に襲われていた神城が四角い箱の中に包まれ、竜がその箱を攻撃し始めた。この箱は先程、桜を閉じ込めていた箱である。
「私の能力は任意の相手を茶室に閉じ込めること。私が倒されない限りは神城君は箱に守られて無事です」
八乙女は淡々と説明する。
「それが魔女の能力か」
工藤は納得したように呟くと、八乙女は睨んだ。
「先輩、自分の能力をバラして良いんですか⁉ それに由希也先輩に箱を使ったら、先輩は無防備じゃないですか!」
何故だか桜は心配そうに八乙女に近付く。
「……私の戦いは、もう終わったから」
春名は初めて八乙女の笑みを見た。いつも仏頂面で感情が読めない女子だったが、笑うと可愛らしい。
「それに、腕の良い剣士が守って来るんでしょ」
八乙女は不敵な顔で桜を見ると、桜もにやりと笑い返す。
「ちゃんとバイト代は貰いますからね!」
桜は竹刀を取り出した。
「佐藤君」
八乙女に急に名を呼ばれ、春名はたじろいだ。
「何だ?」
「あの竜はたぶん、宇田川君が出したんだと思う」
「え」
宇田川があの竜を召還したのか? でも宇田川の能力はサイコキネシス、物体を動かす能力だと思っていた。俺達が考えている能力とはまた違うのか。
「魔女はあの茶室に入れるのか」
春名の思案を工藤が遮る。
「ええ」
「では中に入って神崎の様子を見てこい。それに貴様も倒されれば終わりだ。箱の中に居た方が良い」
「分かったわ」
八乙女はそう言うと、一瞬で姿を消した。箱の中の茶室に入ったのだろう。
「それでは魔王からの命を伝える。透はドラゴンの写真を撮って動きを封じろ。通常であれば、透が三回写真を撮れば相手のライフはゼロになるわけだが、今回は期待しない方が良いだろう。透がドラゴンの動きを封じている間、俺が近づいて操る。ただし俺ではドラゴンは倒せない。弓使いと剣使い、軽音部と文芸部で攻撃をするしかない」
「ちょっと待ってください」
今まで黙っていた楓が口を開く。
「音羽先輩も戦闘に加われと言うことですか」
「そうだ。軽音部は楽器で不快な不協和音を出すのだろう。ドラゴンにも耳はある」
「音羽先輩が他の人みたいに不協和音を出すとか、片腹痛いですね。音羽先輩レベルになると、ポイントを回復したり、眠らす癒しの音楽を奏でるんですよ」
楓は自分のことではないのに、自信たっぷりに言う。対して音羽は恥ずかしそうにやめてよと顔を赤らめる。軽音部の部長は不協和音で攻撃をする部員とは違い、失ったポイントを回復をさせる力を使える。
「なるほど。では、ひとまずは待機だ。どうしてもドラゴンが倒せそうになければ、この場に居る全員を眠らせろ。その場合は、寺田は文芸部の写真を撮って、文芸部だけ無敵の状態にし、覚醒したままにしろ。そして文芸部が檻でも鎖でも出してドラゴンを捕獲する」
「了解」
春名は工藤が居て良かったと痛感する。変わった奴だと思っていたが、冷静に判断出来て頼りになる。
「じゃあ今は誰の写真を撮れば良い?」
寺下はもう名前を訂正することなく、工藤に尋ねる。
「ドラゴンに一番接近する剣使いにしろ」
「分かった」
「そうだ。軽音部はそこの星読みの様子を見てやってくれ」
工藤の視線の先を見ると、志藤が酷く怯えているような、いつもと明らかに様子がおかしい。
「四宇先輩、大丈夫ですか⁉」
慌てて桜が駆け寄る。
「……ごめん、ちょっと気分が悪くて」
「痛覚がないヴァーチャル空間で気分が悪いことはないだろう。おそらく心理的なストレスだな。ドラゴンアレルギーか何かは知らんが、ここは俺達に任せろ」
工藤はさすが指揮者なだけあって、よく周りを見ていると感心する。春名も志藤に声を掛けたが、志藤は座り込むだけだった。一体、何があったのだろうか。
「……申し訳ないけど、今回はログアウトさせてもらう。現実に戻ったら、ヴァーチャル空間に異常があることを先生に伝えて、強制終了してもらうね」
志藤は体育館の外へと向かって行く。
「さて、強制終了されるまで、ドラゴン退治と行くか」
工藤の言葉を皮切りに春名達は動き出した。
「秋雪さん、写真撮りますね」
透が声を掛けると、執拗に箱を攻撃していたドラゴンの動きが止まる。工藤が近づいていき、指揮棒を振るが。
「悲報だ。俺の力はドラゴンには効かぬらしい」
工藤は全く悲嘆せずに、むしろ堂々と宣言する。
「とりあえずは、攻撃しよう」
工藤の言葉を受けて楓は弓を放ち、寺下によって無敵に強化された桜が竹刀を振るうが竜は動じない。動きを封じられた竜は春名達一行を睨み続けている。春名も少しばかり胸が痛んだが、「大砲」と書いて砲弾を打ったが竜が傷つく様子はない。
「手ごわいな。スマウグのように腹に急所があれば良いのだが」
「同感」
工藤と春名の会話に桜が尋ねる。
「スマウグって何ですか」
「『指輪物語』の前日譚の『ホビットの冒険』に出て来るドラゴンだよ。たった一匹で王国を滅ぼす程強いんだ。しかも人間の言葉を喋ることが出来て頭が良いけど、左の腹に弱点があって、最終的にはその急所に弓矢で攻撃をされて倒されたんだ」
スマウグは『ホビットの冒険』に出て来る獰猛で賢い龍だ。ドワーフの王国、山の下の王国と人間の住んでいた町、谷間の国デイルを滅ぼし、王国が持っていた財宝を全て略奪する。『ホビットの冒険』は、主人公のホビット族のビルボが魔法使いのガンダルフ、そして先祖の地を追い出されたドワーフ達と竜から王国を奪還する話である。
「ふーん。じゃあ」
桜は不敵に笑う。
「急所を作れば良いだけじゃん。春名先輩、本物の剣を出して貰って良いですか」
「分かった」
春名が西洋風の剣を出すと、桜はあとはよろしくと楓に言ってドラゴンの元に走って行く。桜が剣を竜に突き立てると、鱗の一つが取れた。
「楓!」
桜が叫ぶも、竜が痛みで暴れだし宮藤のカメラの効力が弱まったのか、それとも竜が無理やり身体を動かしたのか、少しずつ身体が動き始める。尻尾が桜の頭上に降り降ろされようとすると、桜は真横に飛んで避けた。
「え、何⁉」
尻尾を避けたはずの桜は何故だか驚きの声を上げる。
「俺の力だ」
工藤は指揮棒を振るう。どうやら工藤の操る能力で桜は竜の攻撃を避けることが出来たらしい。人を操って攻撃するだけの力かと思いきや、人を助けることも出来るようだ。楓は弓を構える。丁度右の腹に一か所、赤い鱗が剥がれ、白い腹の部分が見えている。楓が弓を引くと、見事に命中する。
「柏木君、凄い!」
「さすが弓使いのバルドだな」
音羽と工藤の褒めに楓は嬉しそうにする。バルドとは、『ホビットの冒険』でスマウグに弓を放って倒して人間のことである。対して竜は初めて咆哮に近い唸り声をあげた。
「あの、写真を撮ってもだんだん動き始めています……」
宮藤は戸惑いの声を出す。すると。竜の口元が赤く光りだす。
「まさか、あれは……」
「ドラゴンと言えば、炎だな」
工藤は心なしか嬉しそうに言う。春名は慌ててスマートフォンに「鉄の盾」と記載して、皆の前に盾を召喚する。盾の上部に赤い焔が見える。あの火炎に飲み込まれていたら、一たまりもない。安堵も束の間、今度は盾の頭上から何やら暗黒の色をした穴が現れる。
「あれは絶対、穴からモンスターが出るパターン」
寺下が呟くと、言葉通り羽の付いた何かが大群でやってくる。
「何、あれ⁉」
「ガーゴイルだな」
寺下の言葉で竜同様、初めて怪物の姿を見る。翼が生えていて顔は醜く、体が小型犬のようである。楓の矢が当たると、ガーゴイルは消滅する。ドラゴン程、強くはないらしい。
「秋雪さん、盾があるとドラゴンの写真、撮れないです」
「文芸部、盾を締まえ」
「分かった」
竜はまた動き出そうとし、宮藤のカメラの能力で動きを封じられる。再び口の中が赤く光りだす。また来る! 春名は思考する。鉄の壁を出せばまた宮藤の能力の効果が消えてしまう。宮藤の力が使えて、つまりはドラゴンの姿が見えるけど、火炎を防げて出来れば攻撃も出来るもの……。春名はスマートフォンに「反射するバリア」と記載した。一体どういうものが召喚されるのは分からなかったが、春名達の眼前に透明な壁が現れ、放たれた炎が龍の元に返っていく。
「すげーな!」
寺下に肩を叩かれる。竜は自身の攻撃を受けて苦悶の表情を浮かべる。すると、春名は何が起きたのか分からなかった。右手に持っていたスマートフォンが消えているのである。
「あれ、俺のスマホは⁉」
「春名先輩、あそこです!」
楓に言われて頭上を見ると、ガーゴイルの大群の一匹がスマートフォンを握っている。
「俺のスマホが!」
完全に油断していた。竜に攻撃が当たったことで舞い上がっていた。スマートフォンが無ければ、能力を発動することが出来ない。
「任せて下さい!」
楓がガーゴイルに向かって矢を射る。見事命中すると、ガーゴイルは消滅し、スマートフォンが落下する。しかしスマートフォンは丁度、竜の近くに落ちる。竜は無理やり体を動かしてスマートフォンを踏み潰す。
「マジか……」
これでは春名は戦力外である。唯一の救いは竜の火炎対策のバリアが残っていることだ。
「みんな、ごめん!」
春名が謝るも、皆は大量のガーゴイルを倒すのに集中していた。すると、春名の前に宮藤が飛び出してきたので慌てて彼を受け止める。
「大丈夫か?」
「あ、すみません。ありがとうございます」
宮藤は腰を折る。見ると、工藤が指揮棒を構え、反射的に動けない攻撃は指揮で操って避けさせている。工藤はガーゴイルに狙われそうになった音羽に向けて指揮を振ると、先程の宮藤のように音羽が楓に向かってよろける。
「音羽先輩、大丈夫ですか⁉」
楓が音羽を受け取めるが、何故だかずっと、両手で彼女を抱きしめている体勢で居る。
「あれ、身体が動かない?」
「これ、わざとじゃないんです!」
音羽と楓はお互いが赤面して動揺していると、
「おい、魔王! いい加減にしろ!」
寺下が突然大声を出す。
「年の数だけ彼女いない俺の前でリア充を見せんな!」
どうやら工藤の仕業らしい。
「お互い好いているのだから良いではないか」
「魔王なのに恋のキューピットにジョブチェンジしてるんじゃねえ」
「安心しろ。俺も純潔を貫く者だ」
「童貞を格好良く言うな」
ほら、困ってるだろと寺下が言いより、工藤は指揮棒を下ろした。
「魔王先輩!」
今度は桜が工藤にずんずんと近づいていく。
「魔王先輩の力なら、四宇先輩と合法的にハグ出来るってことですか⁉」
「そういうことだ」
「じゃあお金払うんでお願いします!」
「金はいらん。この場の魔物を多く倒せ」
「了解!」
桜は飛び上がると、
「眼鏡先輩! フォローお願いします!」
と寺下に声を掛ける。
「結局リア充の手伝いかよ……」
不服そうにしながら寺下は桜を援護する。竜はバリアの所為か攻撃しなくなったが、ガーゴイルは無限に現れる。倒してもきりがない。
「皆の者、よく聞け」
工藤は周囲を見る。
「このまま戦っても勝機はない。何とかなると根性論で勝機のない戦いに挑むほど魔王は浅はかでない」
工藤はそう言うと、春名と音羽を見る。
「魔王の命令を覚えているな」
「ああ」
「頼んだぞ」
音羽がギターを出すと、寺下は春名に向けてカメラを向けた。音羽がギターを鳴らし、歌い出す。驚いた。音羽の声は柔らかく澄み渡り、そよ風のように心地が良い。すると、春名と音羽以外の皆が倒れる。それは怪物達も同様で、飛行していたガーゴイルは地面に降りて眠り、竜もその場に寝転ぶ。春名は足音を立てないように竜の傍に近づき、落ちているスマートフォンを拾った。竜に踏みつぶされたが、壊れていはいない。とりあえず、動けないように翼に鉄塊を置くか……。
刹那、眠っているはずの龍と目が合った。紅の宝石のような瞳。じっと春名を見つめている。ああ、この竜。何で思い出さなかったのだろう。八乙女が言っていた。この竜は宇田川が召喚したと。
「紅玉の竜……」
この竜は、中学時代に春名が書いた小説のキャラクターだ。そうだ。神城が襲われた時。俺は新作を読んでほしいと言った……。この竜の作品は、あいつしか読んでいない……。春名は黙ってスマートフォンをポケットに入れた。
「佐藤君、大丈夫?」
音羽は心配そうに春名に声を掛ける。
「ああ……」
春名は空返事をする。あいつ、覚えていたのか。
「よく分からないけど」
音羽は言いにくそうに声を落とす。
「この竜、寂しそうだね」
「……」
春名は何も答えなかった。
“ヴァーチャル・フィールドを終了します”
アナウンスが流れると、現実世界へと戻って来た。だだっ広い大地から見慣れた体育館に戻る。出入口には志藤と教員が立っていた。そして、寝ていた面々も起き上がる。
「神城は……」
竜に攻撃されていた神城を探すと、何故だか楽しそうに八乙女と話していた。
「お、現実世界に帰って来たぞ!」
いつもと変りない様子である。
「椿君、茶道について詳しく教えてくれてありがとう」
「ええ。こちらこそ、茶道に関わる文学作品を教えてくれてありがとう」
「神城、大丈夫か⁉」
春名が思わず近寄ると、神城は両腕を広げる。
「この通り、ぴんぴんしているぞ! いや、竜に襲われる奇怪な体験をしてしまった」
いつも通りの神城だ。元気そうに何よりである。
「ここに居る皆が助けてくれたんだ」
「そうであったか! みんなありがとう」
神城は律義に一人一人に挨拶に回る。
「秋雪君もありがとう」
「魔王として、ドラゴンと一戦交える貴重な経験をさせて貰った」
「それは何よりです」
取引先かよと寺下が呟く。体調が悪くなっていた志藤も今は元気そうである。それから先生方に何があったのか聞かれ、突然異常が発生と言うアナウンスが鳴ったこと、竜が出現して神城を襲い出したことなどを伝えた。もうすっかり、茶道部に勝って一勝したことなど、忘れていた。
「……神城、ごめんな」
「一体何がだ」
駅に向かう帰り道、春名は謝った。対して神城はけろりとしている。
「あの竜は宇田川が出したんだ」
「そうなのか」
「たぶん、俺の所為だ……」
「証拠はあるのか。VAのバグの可能性もあるだろう」
「あの竜は……」
紅玉の竜。それは中学時代。
「中学の時、俺が書いた作品のキャラクターなんだ」
「……瑛君から聞いたが、二人は仲が良かったのだろう」
「……」
苦い記憶が蘇る。誰にも明かしていない、過去。でも神城は自分の身の上を打ち明けてくれた。今度はこちらの番だと腹を括る。
「……いつもの公園で良いか」
「承知した」
神城は心なしか嬉しそうにする。
春名はブランコに腰を掛け、覚悟を決めた。自分が家族の誰にも明かさなかった、宇田川との過去。どうして誰にも喋りたくないのか。それは忌まわしい痛みや傷を思い出したくないからだ。
そしてもう一つは、痛みの中でも僅かに残った、落としたら割れるスノードームのように、きらきらと輝く、繊細な記憶を残しておきたいから。春名は滔々と語り出した。日は既に傾き、月が昇っていた。
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