ⅩⅩⅨ章

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ⅩⅩⅨ章

 初戦の戦いが終わり、二十ある部活が半数に減った。第二回戦の始まりである。 「次の俺達の相手は演劇部か……」  次の相手は演劇部である。中庭での決戦の時に、助けてくれた高橋を思い出す。 「失礼だが意外だったな。演劇部の一回戦の相手はバレー部で、てっきりバレー部が勝つと思っていたが……」 「まさか棄権するとはね」  神城と志藤は意外そうに話す。確かに、バレー部の安条のサーブがあれば、軍配が上がるのはバレー部だろう。 「……先輩達、知らないんですか」   桜が言いにくそうに声を落とす。 「バレー部のキャプテン、中学時代に女子と付き合ってたって画像が拡散されて。それで学校に来ていないみたいですよ」  バレー部のキャプテン、安条。あの中庭の戦いは、彼女が居なければ勝利出来なかっただろう。まさかそんな事情があったなんて思いもしなかった。 「つまり、同性愛者と言うことか。それが事実として、何故学校に来れないのだ。別に今の時代、普通ではないか」  神城は不思議そうに言う。 「みんながみんな由希也みたいに受け入れてくれるとは限らないだろ」 「そうですよ。私だったら、絶対に来れない」 「怖いよね」  桜も志藤も同意する。自分のことを勝手に暴かれるのは嫌だし、そのことについて周りに言われるのも怖い。 「なんかバレー部と仲良かったバドミントン部がバレー部に負けたテニス部が秘密をバラした犯人じゃないかって戦ってましたけど、テニス部は否定してて、結構荒れてますよ」 「まあ、そうだろうな」  神城は頷く。 「僕らが変にかき乱してもしょうがないから、今は演劇部対策を考えよう」  神城がこう言った時、司書室の扉が叩かれた。 「どうぞ」  神城が言うと、扉が開かれた。そこには演劇部の高橋と見たことのない女子が立っていた。女子は大分制服を着崩し、髪も茶髪である。 「演劇部の高橋です」 「突然ごめんね。三年で家庭科部の長谷川美緒です。前は女装させちゃってごめんね」  長谷川は神城に向かって、両手を合わせて謝る。 「女装って何の話ですか」  桜が尋ねると、 「いやあ、前に下克上の誘いを受けた時に襲撃と勘違いして、そこの三人の服を女子のものに変えちゃったんだよね」  長谷川の答えに桜は小さい声で見たかったと呟いた。 「あの、今日はお願いがあって来ました」  高橋は今日も表情を一切変えることなく話す。 「とりあえず、中へ入ってくれ」  神城は二人を司書室に入らせ、席についてもらう。今日は楓が弓道部の練習の為、ここには居ない。六人までならぎりぎり椅子があるので、二人に座ってもらう。 「それでお願いって……」  春名が切り出すと、二人は顔を見合わせた。 「次の戦い、演劇部は負けます」  想像もしない言葉に場は騒然とする。だから、と高橋は続ける。 「試合の最中、少しだけ、時間が欲しいんだ」 「時間とはどのくらいだ」 「一分か一分半くらい」 「それなら八百長だってバレないかもね」  神城の質問に志藤が頷く。 「しかし、八百長だと気付かれないだろうか」  神城の言葉に、 「一応、みんなに迷惑をかけないように作戦を考えて来たんだけど……」  長谷川は会話に入ると、高橋が説明をする。 「演劇部の部員の力はレフ版を出すこと。攻撃を跳ね返すことに使っていたけど、本来の使い方も出来る。だからわざと君達に光を向けて、眩しいと目を瞑っている間に僕達が時間を使わせてもらって、それで降参する」 「悪い話ではないが、一体何をしたいのだ?」  神城の問いに二人は沈黙をした。最初に口を開いたのは長谷川だった。 「私、家庭科部で服を作っていて、どうしても全校生徒の前で見てもらいたい服があるの。それを瑞貴が着てくれるって言うから」 「僕も、どうしても伝えたいことがあって……」  二人は静かに説明するも、わざわざ対戦相手の所に来るくらいだから本気だと言うことは伝わる。 「見せたい服は三着。勿論家庭科部の服を変える能力は使えないけど、瑞貴の変身の能力があればすぐに着替えられるから、時間は一分か、一分半くらいで終わる。終わってすぐに降参すれば、ファッションショーをやりたかっただけだって思われるはず。だから、お願いします」  長谷川と高橋は頭を下げる。春名達は互いに顔を見合わせたが、誰も反対するの者は居なかった。 「分かった。こっちも勝ちたいし、交渉成立ってことで」 「ありがとう」  春名が答えると、二人は安堵の表情になり、部室を去った。  二回戦当日、戦いが始まった。正直八百長に乗るのはどうかと思ったが、そもそもこのトーナメント自体が強制である。文芸部は勝利、演劇部は全校生徒の前で服を披露することが目的。ならば、お互いの利益の為に動くのも致し方ないと割り切った。  戦闘開始のアナウンスが流れたと同時、演劇部はレフ版を出して強烈な光を向けて来た。目を閉じていても、瞼の裏は眩しい。 「う、うわあ、眩しい!」 「目が開かない!」  神城と桜がわざとらしい声を出す。眩しくて目を開けることは出来ない。演劇部はファッションショーと言っていたが、何を着るのだろう。かろうじて目を開くと、ぼやける視界に高橋が映った。春名は息を呑んだ。高橋は、泣いていた。
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