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ⅩⅩⅩⅦ章
Vウォーズが終わり、学校に平穏が戻って来た。
昇降口に掲示されていた順位はなくなり、部活毎のカーストは消えた。トーナメントで一位になった志藤と相談し、Vウォーズを存続する否か、独断で決めるのではなく全校生徒に投票を実施した。投票の結果、Vウォーズは終わることになった。ただしVAのデータ収集の為、定期的に製作元が試験的にゲームを実施することになり、それに部活毎に参加することになった。
順位による支配が終わり、生徒の顔が明るくなった。いつ襲撃されるか分からないと言う不安から解放されたのだ。更に自分が本来所属したい部活に入ることが出来た。
当初、剣道部と天文部を兼部し、暗闇で四宇先輩と星を見るんですと意気込んでいた桜だったが、天文部には多くの入部希望者が現れて企みは阻止された。他にも写真部や美術部も元居た部員が戻ってきて、賑やかになっている。
桜の剣道部にも部員が戻ってきた。桜を置いて逃げたことを謝罪し、もう一度入部したいとのことである。桜は許し、剣道場も人が増えた。春名は初めて紺の道着姿で竹刀を振るう桜を見た。更に髪も黒髪に戻る。これが本来の桜の姿なのだと思う。しかし桜はインナーカラーと言って、髪の毛の内側だけは金髪のままで、一見すると黒髪だが、髪を結うと金髪が混じっているのが分かる。相変わらず生徒指導に呼ばれている。
そして校庭の半分を占領していた野球部はきちんとサッカー部と陸上部に練習場所を譲っていた。五十嵐と高瀬はよく一緒に居ることが多くなった。以前よりも高瀬の顔が柔らかくなったような気がする。更に水泳部、と言うより清水の仕業だと思うが、校庭に向かって水で応援のメッセージを送っていた。相手は勿論陸上部である。椎名もようやく、松葉杖を使わず普通に歩けるまで回復した。たまに図書室に行くと、椎名はバスケ部の渡辺とよく勉強をしている。時折二人に交じって、家庭科部の長谷川が服か何かのデザイン案を書いていた。受験が迫っていることを痛感する。
学園で変わった者もいる。軽音部の音羽だ。音羽は正式にボーカルとギターを務めることになり、彼女のライブは盛況である。竜と戦った時に歌声を聞いたが、やはり歌声は心地良い。春名も楓に誘われてライブを見に行った。その時楓は背が高くて邪魔になるからと一番後ろで聞くも、他の観客と違い、手拍子などはせずに腕を組んで聞き入っている。
「みんな盛り上がってますけど、俺が音羽先輩の一番最初のファンなんで」
「こうやって古参アピールするの、うざくないですか」
と桜に降られて苦笑する。ライブ後、音羽は楓の元に行くが、先程の威勢は何処へやら、二人とも顔を真っ赤にして話している。
「また魔王先輩に何とかしてもらいますかね」
桜はにやにやと笑う。
Vウォーズで変わった者も居れば、変わらない者も居て、魔王こと工藤は何も変わっていない。堂々と廊下の中央を歩くし、相変わらず自分の世界観に入っている。しかし学内では魔王よりも、魔王の言っていることが分かり唯一口出し出来る写真部の寺下と魔王に気に入られている宮藤が密かに恐れられている。
一時は学校に来なかったらしい安条も登校していて、バドミントン部の柚木、演劇部の高橋と一緒に居て楽しそうに笑っている。安条も高橋も笑顔を見る機会が増えた気がする。
テニス部の徳田は時折部室に乱入し、「春名ちゃん借りるね!」と言ってそのまま連れていかれ、買い物に付き合わされたことがある。大好きな水田にリラックスしてほしいとプレゼントを探すとのことで、何故女友達ではなくて自分なんだと思ったが、春名はずっとドギマギしていた。思い切って尋ねると、何でも「アリカが歩くと、周りの男が寄ってくるから用心棒が欲しいの」と言う。「アリカ、男嫌い。でも春名ちゃんは優しいから嫌いじゃない」と笑顔で返答する。 春名は余計に緊張し、顔が紅潮しているのがバレないようにするのが大変であった。
ほとんどの部活は元居た部員が戻って来たが、対して文芸部は、部員は誰も帰って来なかった。当時部長だった三年生は受験の為分かるが、茶道部に行った女子二人は茶道の奥深さにハマり、そのまま活動するとのことだった。厳しそうに思えた八乙女だが懇切丁寧に教えてくれるので、意外とVウォーズの時から居心地は良かったらしい。八乙女は桜とも親しくなり、よく女子会と言って抹茶のスイーツを食べに行くと言っている。時折神城も二人に声を掛けられ、女子会に行っているらしい。演劇部の高橋もそうだが、女子に交じれるのは凄いと思う。 もう一人の男子はバスケ部に入ったらしいが、ふくよかだった体形がスリムになり、更に筋肉までついて別人のようになっている。何でも嫌々入ったらしいが、バスケの楽しさに目覚め、今では身体を動かすことが好きになったらしい。文芸部に戻ってこないのは寂しくは思ったが、それぞれ自分のやりたいことが出来ているのなら良いと思う。文芸部の部室には神城も居る。
全て終わった。思えば、あっという間の一ヵ月だった。神城と無謀な作戦を練って、仲間を集め、戦いに巻き込まれ、最終的には全ての部活を巻き込んだトーナメントまで開かれた。今でも勝利出来たことが不思議である。俺は宇田川に負けていた。志藤が居なければ、勝利はなかった……。
全てが解決した。校内の空気は変わった。生徒の顔は晴れ晴れとして、自分の好きな部活に入れ、活動を楽しんでいる。これが本来の部活のあるべき姿だ。これが俺の取り戻したかったこと。それなのに……。春名の心はまだ落ち着かない。何か、まだやらなければいけない気がする。その正体に気が付いている。見て見ぬふりをしていることも。それに気が付いたのは、他ならぬ神城だった。
「春名君、ずっと言おうか迷っていたことがあるのだが……」
放課後の部室。司書室で本を読んでいた神城は春名の顔色を見ながら、口火を切る。
「何だ?」
「実は伊織君との戦いで春名君の作品をステージに出した時」
「ああ」
「僕と四宇君が登録した作品は『言の葉戦争』だけであったのに、佐藤春名で著者名を検索をしたら、もう一件作品が登録されていたのだ」
「……え、何の作品だ」
「僕も知らない作品だった。作品名は、『黄昏の車窓』」
春名は全てを察して瞠目した。神城が知っているはずはない。それは。
「……それは、初めて俺が書いた短編小説だ」
神城に自分の作品を読んでもらう時に、わざと外した。この小説は……。
「きっと伊織君だな」
「……ああ」
『黄昏の車窓』は、春名が初めて書いた小説だ。小説を書いたネタ帳をたまたま宇田川の机の中に置き忘れ、読まれた。少年が電車の中で不思議な青年に会う話だ。あの決戦以降、宇田川には会っていない。今更、どんな顔をして会えば良いのか分からない。
「僕は二人の問題だと思うから首を突っ込むのはお門違いだと思う。しかし、一つだけ言わせてほしい」
神城は春名を見据える。
「伊織君は、春名君の作品を好きだったと思う。今もそうだ」
「それは分かってるけど……」
春名もそれは知っている。でなければ、春名がペンネームで公開している作品を探し当てて読まないだろう。
「じゃあ何で、あいつは俺のところに来ないんだよ」
「そりゃあ……」
神城は春名を呆れたように見る。
「四宇君と桜君から聞いたぞ。”今度俺の名前を呼んだら、眼鏡かち割る”と言われたら、おいそれと話しかけられないだろう」
神城は春名の真似をする。
「伊織君とこのまま一生話したくなければ、僕はこのまま何もしないで良いと思う。それだけのことを彼はした。でも、ほんの少しでも、このままで良いのかと言う迷いの気持ちがあるのなら、会った方が良いと思う」
「……」
神城の言う通りだと思う。Vウォーズが終わっても、春名の心がざわついている。俺の戦いはまだ、終わっていない。
「ごめん。俺、もう帰るわ」
「承知した」
神城は笑顔である。
「春名君、Vウォーズの本当の決着をつけに行け」
「ああ」
「部員も絶賛募集中だぞ」
「そう言うことは部長の俺のセリフだって」
春名はパソコンを鞄の中に入れ、司書室を出た。本当の決着。今まで逃げてきたこと。今こそ、向き合う時だ。
宇田川が居るであろう、コンピューター室の前に辿り着いた。春名は深呼吸をする。神城に背中を押され、勢いで来てしまったが、何を話そう。と言うか、一番最初に何と声を掛けたら良いのだろう。春名は扉の前で立ち尽くす。今まで悪かった。いやでも、悪いのはあいつの方だろ? じゃあ、久しぶり? いやでも、顔は見ているわけだし……。小説を認める時はすらすらと文章が出て来るのに、今は全く思いつかない。ああ、もうこれじゃ、一生会えない気がする。
春名はもう出たとこ勝負だと腹を括り、コンピューター室の扉を叩こうとした時だった。突然扉が開いて、中から宇田川が出て来た。
「あ」
宇田川は春名の存在に目を見張る。
「お、おう……」
まさか急に宇田川が出て来るとは思わず、春名も委縮する。
「あ、じゃないでしょ。早く謝りなさい」
宇田川の後ろから女子の声がしたと思うと、なんと宇田川の頭を叩いた。あの宇田川の頭部を叩ける人間などそうそういない。見ると、茶道部の八乙女だった。八乙女は春名を一瞥して、宇田川に向き直る。
「本当は貴方から佐藤君の所に出向くべきなのに、わざわざ来てくれたのよ。いい加減、対話しなさい」
八乙女はきつく言うと、その場を後にする。宇田川、八乙女と仲が良いのか……。春名は意外に思った。
「あ、えっと、八乙女さんと仲良いの……」
春名は自分でも何を聞いているのだろうと思った。
「え? ああ、そうなのかな? 話しやすくてね。最近は怒られてばかりだけど」
「怒られるって、なんかしたのかよ」
「僕と君のこと」
そう言うと、宇田川は苦笑した。
「中に入る?」
「あ、うん……」
気まずいと思いながらも、コンピューター室に入る。中には誰も居なかった。
「……春名」
宇田川は改まった様子で春名を見る。
「今まで、ごめん」
宇田川はそう言って頭を下げた。春名は驚きで何も返事が出来なかった。
「僕はついこの間まで、自分は一切悪くないと思っていた。悪いことをしていないのに、どうして謝らないといけないんだろう。何で春名は必要以上に怒っているんだろうと思っていた」
宇田川から自分の言葉を聞くのは初めてだ。
「だけど、八乙女さんに叱られたよ。相手を怒らせたのなら誠意を見せないといけないって。僕は本を読むのは好きでも、言葉にするのは上手く出来なくて、だから、春名と同じ学校に行ったり、VAから派生して他の部活と話す機会があるVウォーズを始めたり……」
「え、まさかVウォーズを始めたのって……」
春名は言葉を失った。宇田川のやることは想像の遥か上を行く。宇田川は頷いた。
「……お前、どれだけの人間を巻き込んでいるんだよ」
「そうだよね。八乙女さんにも軽蔑の眼差しを向けられた」
「まあさ、悪いことばかりじゃなかったけど、それでも傷ついた人間も居るから」
まさか、Vウォーズの始まりのきっかけが自分にあったなど、考えたこともなかった。いや普通、予想もしていないだろう。もはや言葉が出ず、溜息しか出ない。こいつはやっぱり、良くも悪くも人の想像の上を行く行動力を持っている。
「僕は人の気持ちを察したり、感じ取るのが疎いみたいだ。周りが見えていない。自己中心的で傲慢な人間だ」
「いや、そこまで悲観的になるなよ」
宇田川は肩を落としている。こんな姿、初めて見た。
「誤解してほしくないのは、中学の時、僕は春名の作品を皆に読んでほしかったんだ。これは本心だ」
「……分かってるよ」
それは分かっている。
「お前、俺の小説をVAに登録してたんだって」
「え? ああ。うん。著作権法違反だね」
「別に良いけど、何で」
「それは……」
宇田川は春名の目を見た。
「同い年で新しい世界を作れる人が、凄いと思ったんだ」
きちんと宇田川の顔を見たのは、中学の時以来だろう。立ち振る舞いは同じ高校生に見えないが、近くで見るとあどけなくて、自分と同じ高校生だ。
「僕は生まれてからずっと、父親の会社を継ぐように育てられた。勉強もそうだし、礼儀作法も習い事も全部。言われた通り、決められたことをした。自分で何かをしようとする気も起きなかった。ただ言われた通り、人形みたいに生きていた」
だからと、宇田川は春名の目をまっすぐと見据える。
「たまたま春名の小説『黄昏の車窓』を読んで、青年が絵本を車窓に見せて、自分の意思で行動しているように思っていても、誰かの意思で操られているかもしれないって話。これは僕の事だと思ったんだ。すごく、共感した」
そう言って宇田川は笑みを浮かべた。春名は感極まった。中学の時の、夕日が差し込む教室を思い出した。純粋に本を読むのが好きで、自分の中から出たがっている言葉を作品にして、読んでもらって。ただただ、楽しかった。俺が今も小説を書いているのは、宇田川のおかげだ。あの時、宇田川が俺の小説を読まなかったら、今の俺は居ないだろう。
「僕は親の言うことを聞いて生きていたから、自分の意思で新しい物語を作る春名を尊敬したし、羨ましいと思った。『紅玉の竜』を読んだ時も、主人公を助けようとした少年は竜になってしまったけど、それでも彼を守ろうとして、友情は良いなと思った。それで僕も、春名の為に何かしたいと思って、それで……」
「もう良いよ」
春名が言うと、宇田川が不安そうな眼差しを向ける。しかし春名は、気恥ずかしさで彼を制しただけだった。
「何だかんだあったけど、俺は伊織のおかげで小説を書いて来れた。たぶんあの時、偶然小説を読まれなかったら、あのまま書き続けていたか分からねえ」
もしかしたら、小説を書くことに飽きていたかもしれない。もしくは、上手く文章が書けずに挫折していたかもしれない。春名の脳裏に楓の言葉が蘇る。
「俺の作品の、一番最初のファンになってありがとう」
春名は自分でも恥ずかしくなって、慌てて宇田川から目を逸らす。宇田川も顔を伏せる。おそらく二人とも、同じ感情を抱いている。
「……あのさ」
もう変な意地は張らないようにしよう。
「何?」
「文芸部、入らねえか」
「え?」
宇田川は瞠目する。
「……由希也がお前を勧誘して来いってうるさくてさ。俺が部長なのに。スーパーマルチ部と兼部でも良いし」
「いやでも、僕は神城君に酷いことをした」
「あいつは全く気にしてないから」
「……本当に良いの?」
宇田川はおずおずと尋ねる。
「おう。俺の作品、また批評してくれよ」
「分かった。お世辞は言わないからね」
春名と宇田川は笑い合った。中学の時と、制服も学校も違う。それでも、春名と宇田川はあの頃と同じだ。純粋に文学が好きな、同志。春名の執筆のきっかけを作った恩人。
決着はついた。宇田川と言うよりも、自分の感情の方が余程障壁になっていた。宇田川の行動を許せないと言う憎しみ。その憎悪は宇田川の言葉で融解された。相手を許すことは容易ではない。頭では理解していても、心が許せない。壁が出来てその壁は簡単に崩すことが出来なかった。しかし、壁は一瞬で崩れ去った。宇田川から本心を聞けて、春名の壁はなくなった。これで良かったと思う。時間はかかったし、Vウォーズにまで発展してしまったが、ようやく壁を越えて前に進める。これは背中を押してくれた、由希也のおかげだ。
「結局、お前の能力は何だったんだよ」
電車の座席に腰を下ろしながら、春名は尋ねた。春名は久しぶりに宇田川と一緒に帰った。黒塗りの車で帰らないのかと聞いたら、さすがに電車を使っていると返された。
「志藤君の読み通り、誰かの能力や出したものを創り変えて、自分の物にしたり、別の物の変えること。僕は再創造、リクリエイトと呼んでいた」
「最強じゃん」
再創造。何かをまた創り出す力……。名前だけ聞くと、強すぎる能力だ。
「そうでもないよ。一回しか使えないし。それよりも、能力の正体を明かさない方が大変だったよ」
「そうだよ。おかげで伊織の能力を探すの大変だったんだぜ」
分析を得意とする志藤が居なければ、宇田川の能力は解明出来なかった。その志藤ですら、最後は博打で能力を当てたと言っていた。
「情報は勝利を制するからね。基本的には相手の能力の使用権を自分にリクリエイトした。でもそれをやり続けると、相手の能力のコピーだと分かってしまうから適度に変えていた」
トーナメント前に野球部の高瀬と吹奏楽部の工藤の能力を使ったこと、一回戦の弓道部や三回戦のバドミントン部と戦った時がそうだろう。
「だからたまに違うものをリクエイトして、能力の正体を悟られないようにしたんだ」
「美術部の妖怪をがしゃどくろに変えた時みたいに?」
「そう」
「そう言えば、テニス部の徳田もボールが消えたって言ってたけど」
「徳田さんは馬鹿じゃないから、自分より強い相手には挑まないと思ってね、はったりをかけた。自分の得意のサーブを消したら、退くと思ったんだ」
あとは、と宇田川は続ける。
「部員の能力がVウォーズの記録を見ることが出来るのも助かった。相手の出方や弱点が分かるし」
「ようは頭脳戦ってことか」
春名はため息をつく。
「俺なんか、みんなから凄い力だって言われたけど、咄嗟に何を召喚したら良いのか分からなくて、盾や生き物ばかり出してたな」
「まあ、春名は自由に出せるから、自由すぎると逆に困るよね」
「あ、でもあれ? 竜が出た時」
あの竜は文芸部と茶道部の試合の後に出現した。ヴァーチャル・フィールドが展開されていたとは思うが、誰も何もしていなから再創造は出来ないはずだ。春名が竜について言及すると、宇田川は決まりが悪そうに黙り込む。
「あれは……」
正当な手段ではないのは確かだろう。
「実は会社のスポンサーだからって、VAのプログラムを書き換える、管理者権限を貰っていて、勿論普段は使っていないんだけど、あの時はついにかっとなって……」
「お前……」
春名は呆れて言葉が出て来なかった。春名に話しかける為に、Vウォーズを始めるような男だ。常人には理解出来ない。
「やって良いことと悪いことがあるだろ」
「だよね。竜のことを追及されて八乙女さんに白状したら、平手打ちをされた。初めて眼鏡が吹き飛んだよ」
「吹き飛んだって」
宇田川は真面目な顔で言うので、春名はおかしくて笑ってしまった。それと同時に宇田川の顔を殴れる八乙女も凄い。先程も頭を叩いていた。この学園に唯一宇田川に物申せる貴重な人材である。
その後も家に帰るまで、久しぶりに宇田川と一緒に談笑した。中学の時も思い出す。放課後の教室。昨日読んだ本の感想を言い合い、春名が小説を書いた時は編集者のように批評をしてくれた。今でも落としたら割れてしまう、ガラス玉のような繊細な思い出だ。あの事件で宇田川に心を殺されたが、それでも春名が初めて小説を読んで貰ったのも、こうして書き続けることが出来ているのも宇田川のおかげである。その事実は変わらない。ようやく、Vウォーズは終わった。
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