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ⅩⅩⅩⅧ章
Vウォーズが終わり、文芸部に宇田川が入部して、司書室は賑やかになった。神城は宇田川と延々と文学談義をしていて、春名は二人の会話を聞きながら、小説を書いた。春名はこの放課後の時間が大好きになった。
ある朝、学校に登校する前に駅で神城と待ち合わせをした。いつもは別々に登校している為、春名は神城から連絡を受けて不思議に思った。駅で神城を待っていると、春名君!と声がした。声のした方を見ると。
「見てくれ! ようやく僕の制服が届いたぞ!」
前の学校の学ランを着ていた神城は、春名と同じブレザー服の制服に身を包んでいる。
「どうだ? これで僕も正式な超デジタル学園の生徒だ」
意気揚々と宣言する神城であったが。春名は笑ってしまった。
「何故だ、何故笑う!」
「ごめん、やっぱり違和感があって……」
申し訳ないと思いつつも、神城は黒の学ランの印象が強すぎて、チェックのズボンを履いた姿は見慣れない。
「それでな、問題があるのだ」
「何だよ、問題って」
「ネクタイ」
神城はネクタイを手に持っている。
「結べないのだ」
「マジか……」
春名は呆れたが、そう言えば自分も最初は結べなかった。父親に結び方を教わった。でも、神城の父親は居ない。
「分かった。笑った代わりに俺が教えてやるよ」
「頼んだぞ。一応結び方の動画を見たのだが、いまいち分からん」
春名は自分のネクタイを解いて、神城に教えるが神城は意外と不器用なのか、歪な形になる。
「練習すれば、結べるようになるって」
「そうだと良いが……」
「あれ、二人ともどうしたの」
駅前でずっとネクタイの講習をしていると、宇田川がやって来た。
「伊織君、おはよう」
「おはよう。あれ、由希也、ようやく制服が届いたんだ。似合っているね」
「伊織君、ありがとう! 聞いてくれ、春名君は僕の制服姿を見て笑ったんだぞ」
神城は宇田川の傍に行く。
「それは酷いね」
「そうだろう?」
「悪かったって」
春名は謝るも、何だかこの雰囲気は良いなと思う。普通の高校生活みたいだ。
「それじゃあ、学校に向かうとするか」
神城の言葉で三人は学校へと歩き出す。学校に行くの、こんなに楽しかったんだ。春名は忘れていた感情を思い出した。
学校に向かっている途中で公園が目に入る。神城にVウォーズについてを教えたり、春名が宇田川との過去を明かした場所だ。公園の木は紅葉し、黄色のイチョウの木や真っ赤な紅葉が公園を彩っている。イチョウの葉っぱが揺れながら落ちていった。
綺麗だ。
「春名君!」
じっと公園を見ていると、神城が声を掛けてきた。
「何してるの」
宇田川も尋ねる。
「いや、何でも」
春名は慌てて二人の元に走って行った。
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