Ⅵ章

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Ⅵ章

「いいか、この超デジタル学園には文化部が十、運動部が十、合計二十の部活動がある」 「なるほど」  春名は司書室で眠っていたホワイトボードを使って、教師のように神城に部活動の紹介を始める。デジタル化を推進する高校ではホワイトボードは過去の遺物であるが、司書室で埃を被って眠っていた。そもそも司書室自体が遺跡のようなものだ。司書室の横には図書館があるが、基本的に本の貸し出しはタブレットでデータをダウンロードする。まだデータ化されていない本だけが、図書館に残っているのだ。司書室は昔は本の補修や図書館に置ききれない本を保管していたが、今は図書館で間に合っている為、文芸部しか使っていない。春名はホワイトボードに順位と部活を書いて行く。 「頂点に君臨しているのが、スーパーマルチクリエイター部だ。この間のいけ好かない眼鏡、宇田川伊織が部長だ」 「そのけったいな名の部活は何なのだ」  神城は眉根を寄せる。 「ああ、このイカレた名前の部活は、他の高校で言うところのパソコン部だな」 「では、パソコン部で良いではないか」 「本人に会った時に言ってくれ」  春名の脳裏に宇田川の姿が過った。自信過剰で常に不敵な笑みを絶やさない。この馬鹿げたヒエラルキーを作った張本人である。 「そのスーパーマルチ何とかは一位に君臨するだけあって、さぞかし強い力を持っているのだな」 「いや、能力は分からないんだ」 「分からない?」  神城は復唱する。 「そうだ。分からない。だから、倒せない。攻撃をしに行っても、気付いたら敗北しているらしい。ある者は攻撃を無効化されたと言う、ある者は持っていた武器が消えたと言い、ある者は違う場所に飛ばされたと言っている」 「無敵ではないか」  神城は絶句する。 「何か弱点はあるはずだが、能力が分からないから探すことも出来ない」 「なるほど。能力を隠していると言う訳か」  神城は一人納得したように手帳に記す。 「次に四天王と呼ばれている部活がある」  春名は四天王と書いて、四つの部活の名を記した。 「二位がこの間の野球部。部長はあの時会った高瀬涼雅だ」 「あのいかにもプライドが高そうな男だな」 「そうだ。野球部の能力は部長の高瀬は通称“場外ホームラン”と言う技で、金属バットで触れた相手のライフを一気に減らして退場させる。逆に部員達はこの間戦った時に見たと思うが、巨大なミットで攻撃も防御も出来る。野球部はチームワークで他を圧倒して来た部活だ。部員達の巨大ミットで攻撃を防ぎ、高瀬の場外ホームランで攻撃を仕掛けるんだ」 「なるほど、。チームプレイが特徴と言うことか」 「そうだ。人数も多いし戦ったら勝つことは難しい」  神城は何も言わずに、手帳に何かを記した。 「三位はテニス部。テニス部って言っても女子しか居なくて、それも可愛い女子しか入れない。部長は徳田亜理華って女子で確かに可愛いけど、技は豪快でもはや火球に近いスマッシュを打って、相手をねじ伏せる」 「力技タイプだな。平部員の力は何なのだ」 「巨大なラケットで防御する力だったな。野球部のミットみたいな感じ」 「こちらも攻撃と防御か」  春名は神城に説明をしながら、果たしてこれらの強豪の部活に本当に勝つことが出来るのかと、不安に襲われる。それでも説明は続けた。 「四位は吹奏楽部だ。部長は工藤秋雪と言う奴で、通称は魔王だ」 「魔王? 魔王と呼ばれているからには、さぞかし強い力を持っているのだな」 「いや。魔王って呼ばれているんじゃなくて、自分で自分のことを魔王と呼称しているんだ」 「……おお。異世界から転生して来たのだろうか」  さすがの神城も呆気に取られてる。 「工藤は指揮者なんだけど、指揮棒を振っている間、他人を操ることが出来る。でも、相手が近くでないと操れないらしい」 「では、近寄らなければ良い話だな」 「それが違うんだ。吹奏楽部の平部員は楽器を吹くと、音を聞いた人間を自分達の方に近寄らせる、相手を引き寄せる力がある」 「まるでハーメルンの笛吹き男ではないか」 「まさにそうだ。部員が楽器を吹いて工藤に近付くようにして、工藤の指揮の力で味方同士を攻撃させて自滅させる。直接攻撃が出来る能力ではないが、チームプレイで四天王にまでのし上がって来た」 「こちらも部全体が協力しているのだな」  神城は熱心に手帳に書き込む。 「五位は茶道部だ」 「茶道部とは、失礼だが意外だな」  神城は目を丸くする。 「ああ。茶道部はとにかく人数が多くて、他の部活から逃げた者を吸収して大きくなったんだ。平部員の能力は茶筅を動かして、相手を回転させる。部長の八乙女椿の能力は、スーパーマルチクリエイター部と同じで謎に包まれている」 「また分からないのか」 「何でも“箱”に閉じ込められるらしいが、真偽は分からない」 「箱に入ったら“ほう”と言うのだろうか」  真顔で言う神城に、春名は思わず笑ってしまった。 「俺らも久保竣公みたいに魅入られないようにしよう」  そうだなと、神城も笑みを浮かべた。 「次に六位から十位まで順番に軽音、バスケ、バレー、サッカー、陸上部。ここら辺は俺が見た感じ、順位がよく変動している。特に最近は軽音部に勢いがあって四天王を目指している感じだな。ただ目立つ四天王とは違って、各部活の能力が正確には分からない」 「調査する必要があるな」  神城は頷いた。春名は最下位になってから、他の部活の様子など全く気にも留めなかった。目立つ四天王はクラスメイトの会話から自然と情報が耳に入って来るが、他の部活は知らない。 「それから掃除が対象の十一位から十五位が順に、水泳、弓道、バドミントン、演劇、家庭科。ここはほとんど入れ替わりがない。部員が少数で下位に居る印象だな。それで十五位から最下位の部活は、剣道、美術、写真、天文学、そして俺達の文芸部だ」 「なるほど……」  神城は春名がホワイトボードに書いた順位を手帳に移している。 「確認だが、Vウォーズは誰かが勝負を仕掛けると、相手は強制的にバトルに参加させられ、持ち点を競うのだな」 「そうだ。誰かがVAのアプリで“バトル”を押して発動すると、その場がヴァーチャル空間に変わって勝負が始まる。バトルを宣告された方は強制的に参加させられて、五千のライフを先にゼロにした方が勝ちとなる。複数の部活が集まっている時は、バトルを仕掛けた部活が負けるか、一つの部活に残るまで戦うことになる」 「いきなり勝負を仕掛けられた方は不利だな」  神城の言う通りである。文芸部も不意打ちでやられた。突如バトルを吹っかけられて、何も出来ないまま敗北してしまった。 「十一位から十五位の水泳、弓道、バドミントン、演劇、家庭科部。この部活は、積極的にポイントを取りに行ったり、他の部活を攻撃しているか?」 「いや、俺が見た感じは、割と穏健派と言うか、あんまり積極的じゃない感じがする」  春名は神城の質問の意図が分からなかった。 「勿論、襲撃に遭ったらやり返すとは思うけど……」  神城は一人で唸りながら、何か手帳に書いている。作戦を練っているのだろうか。 「言っちゃ悪いが、いくら準備しても勝てる見込みはないぞ」  春名が思わず不安を吐き出すと、神城はそうだなと同意した。 「僕ら二人だけでは絶対に勝てないのは目に見えている」  神城は手帳から視線を春名に向けた。 「おそらく順位が十位までの部活はこのVウォーズを終わらせたくはないだろう。サッカー部の司佐君のようなケースがあるから一概に言えないが。僕ら弱者が反抗すれば、自分達の優位性を保てない。全力で止めるだろう」 「じゃあどうするんだ」 「僕らも仲間を作るしかない」  神城はにやりと笑った。
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