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時皿
夏と言えば怪談話がちょいちょい多くなる季節でございますなぁ、心霊番組もとんと見なくなりましたが動画サイトでは年がら年中見ようと思えば見れる
肝を試すってぇのも平安の頃よりあったそうで頼光四天王が羅生門で鬼の腕を斬って戻って来たが結局は取り返されたと言う昔話もございましてな
有名な所でお岩さんや累、それに四谷怪談で知られるお菊さんってのもありまして
「へぇ?そういう話があるンですかぃ御隠居」
「逆に知らない方がびっくりだよ番町の旗本、青山様の古屋敷の井戸に出るンだよ」
「出るって?」
「コレだよ」
御隠居は若い衆に手をだらんと下げて恨めしそうに見る
「ひいっ!?お…脅かすねぃ」
「青山播磨様がお殿様から頂いて大事にしてた10枚1組の絵皿があってな、それを妾として手元に置いていた美人の女中のお菊に任せていたそうだ」
「美人!?どのくれぇ美人だったんでさ?」
「そうさなぁ…吉原の中程の客引きなんざ恥ずかしくて面ァ隠す程だ」
「見たかの様に話すね」
「だがその旗本がすげえ女好きなのか、奥方が嫉妬深いのか分からねぇがお菊さんが邪魔になって追っ払いてぇんだが器量良しで働きモン、そうそうボロが出る訳ゃあ無ェ」
「どうしたンでさ?」
「そこで10枚1組の皿よ、1枚を屋敷の裏井戸に落としたンだよ」
「え?お殿様から貰った皿を?」
「そうよ、それでいけしゃあしゃあと皿が見たいとお菊さんに言う、お菊さんは数えるが当然1枚足りない、旗本は足りない事を責めたてる」
「てめぇで隠しといてひでぇ奴だね!」
「それで無礼を働いたって旗本ぁお菊さんを斬っちまって皿ぁ落としたあの裏井戸に落としてフタぁしちまった」
「重ね重ねひでぇ奴だ!」
「まぁまぁ、因果応報悪因悪果、夜な夜な裏井戸からお菊さんの声で皿ぁ数える声がする」
「それが例の?」
「ああ1枚2枚とな、そして9枚数え終わると1枚足りないと悲しげに泣くンだよ、それが毎日な」
「その後どうなったんで?」
「真っ先に奥方がダメになっちまって小石川の方に行っちまって使用人も1人また1人と辞めてった、最後に残った旗本も屋敷を棄てて逃げたンだが毎晩お菊さんの声がするからとうとう…」
「当たり前でぇ、でもそれならおかしく無ェですか?」
「旗本を取り憑いても肝心の皿が無ェ、だから1枚足り無ェ1枚足り無ェと未練が残ってしまってなぁ。9枚目を数えたのを聞いた奴ぁお菊さんの「1枚足りない」が耳に残っちまってあの旗本同様精神を病んで亡くなるのが何人も出ちまった」
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