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若い衆はゴクリと唾を飲み
「今でもあるンですかい?」
「行くなら家賃払ってからにしな、それと6枚目で逃げろよ?決して9枚目を聞いちゃならねえぞ」
「分かりましたよぉ、6枚目ね?6枚目」
御隠居は冷めた出がらしを飲み、懐から出した煙管で一息入れ
「実はな、同じ井戸があるって噂があってだな番町の反対なんだが本所七不思議の近くに長命寺は知ってるかい?」
「ええ、良く春先にゃあ花見に行きやすけど…あるんですかい?」
「コレぁ多分与太話かも知れん、お菊さんにゃあ妹が居てな?名をお桂と呼んだそうだ」
「かきくけこって事で?」
「茶化すんじゃないよ、そのお桂さんも姉に似て美人なんだが頭がちょいとゆるい」
「ゆるい?」
「若い衆の言葉で言うと「天然」って言うのかい?真面目に数えるンだが真面目過ぎて周りが見えなくなるそうでな」
「あーいるいる」
「そんでお桂さん、井戸端で主人の皿を手ぇ滑らせて井戸に落としちまってな」
「そればっかりはお桂さんのしくじりじゃないですか!」
「それがな、取れると思って皿共々井戸に落ちちまったんだ。当たり所が悪かったのか井戸の底で亡くなってよ、姉とは違い亡骸は寺で手厚く葬ったンだがそのお桂さんも井戸で出る様になっちまった」
「は?恨むならお門違いでしょ」
「お桂さんは心残りで皿ぁ数えてるらしい、責任感が強かったンだろうねぇ」
そして場所は変わって長命寺から北東にある地元のたぬきが巣にしてそうな件の荒れた武家屋敷、日の傾きかけた昼七つ半に頭の月代や髭はぼうぼうの大小下げた武者修行の剣客が立ち寄った
「誰か居られぬか?」
返事は無い、そりゃそうだ漆喰の壁もひび割れて人の気配なんてある訳ゃあ無い。門にはようよう読める字で[小林]と書かれている
「どうやらここのようじゃな、誰も居らぬようだし勝手相すまぬ」
剣客が見渡すと剣道場を兼ねた武家屋敷らしい、すると後ろから
「お侍さん、どうなすった?こんな所で」
「ん?そなたは土地の者か」
「へえ、五兵衛と申します。泊まるならもうちょい歩いた先に長命寺って寺ぁあるさで、こんなバケモン屋敷に入る事ぁ無ェよ」
「五兵衛とやら、某陸奥の国から剣術旅をしておる木村作左衛門と申す。実はな…」
作左衛門が言うには江戸から陸奥国に来たここ小林家の孫が作左衛門の剣術仲間で共に江戸に向かう途中で病に倒れてしまい亡骸は途中の寺に懇ろに葬り位牌だけでも本家の家に送ってやろうと探して居たと言うのである
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