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 お義兄さまの使い魔として暮らし始めてから数日。居心地の良い生活にだらけきっております。使い魔ってこんなに幸せなの? 推しにお世話される生活、最高かよ。  今日もお義兄さまのお部屋でのんびりティータイムです。私が行方不明になっているせいで、学園は休校なのだとか。申し訳ない。  そしてここで重要な事実が判明いたしました。なんと、お義兄さまには好きな方がいらっしゃるようなのです。  夜半、切なげな顔で「どうして素直に好きと言えないんだろうな。あんな傷つけるような言い方なんかしたくなかったのに」なんて独り言をつぶやく姿は、王国中の画家を呼び集めて絵画にし、後世に伝えていきたい美しさでした!  これは大ニュースですよ! ぜひともファンクラブメンバーにも共有せねばと張り切っていたのですが、お相手が少し……いえ大変問題でして。  何かお手紙やら、難しそうな報告書をジェロームさまが読んだりしている中で、私は見てしまったんです。従姉妹の絵姿をじっと見つめているのを。  えええええ、お義兄さま、女の趣味が悪過ぎますよ。どうして従姉妹なんですか。世の中にはもっと可憐で優しい女の子が山のようにいるんですよ。  どうにかして従姉妹から関心をそらそうと、従姉妹の絵姿をつついてボロボロにしてやりました。  大体従姉妹には、婚約者がいるんですよ。醜聞をかぶってまで、選ぶ価値のある相手には思えませんがねえ。お義兄さまの目が節穴でがっかりですわ。 「あまり失礼なことを言っていると、頭から食べてしまうよ」  ひいええええ、お義兄さま、お助けを! ちゅぴちゅぴ言っているだけなのに悪口をかぎあてるとは。そういうところも最高です。 「はあ、まったく。とんでもない使い魔だ。さあ、僕の名前を呼んでごらん。それくらいできるはずだ」  マジですか。使い魔って、声帯の違いすら乗り越えるんですか? 小首を傾げつつ、言葉を紡ぎます。ちゅぴちゅぴを頭の中の言語に合わせるのって難しい!  ジェロームさま。  呼びかけるとくすぐったそうに目を細められました。 「途中までしか聞こえないな。長い言葉は難しいんだろう、ジェロと呼んでごらん。ほら、ジェロだ」  じぇ、じぇ……。  推しの名前を勝手に愛称で呼ぶなんて、そんな恐れ多いいいいいい。
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