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幼い彼にとって、それは叶わぬ夢であると知りながら。
「デグ! ケイナ叔母さんが呼んでいるよ! 花飾り終わったかってさ!」
元気一杯の声に彼は振り返り、またも深い溜め息を吐いた。
金色の小麦畑のような明るい金髪にピンク色のリボンが付いたカチューシャを少女が立っていた。豊穣祭は明日からだと言うのに気が早く、ポピランの花をあしらったドレスを着ている。
彼女は頬を膨らませて、彼の手に持つバスケットを見た。
「なぁ、アリエッタ。何度も言うが、俺はデグではなく、ディグだ。デグとディグじゃぁ大違いだ」
「どっちでもいいじゃない。デグはでくの坊のデグだから、合っているじゃない」
「どんな理論だよ!」
アリエッタがディグのことを「デグ」と呼ぶには、ディグにも責任があった。幼い頃に初めてアリエッタと出会った時に彼は鼻が詰まっていたため、自分の名前を「デグ」と名乗ってしまった。それ以来彼女は「デグ」と呼び、何故か頑なに「ディグ」とは呼ばない。
このやり取りに最近は疲れてきた彼は気を取り直して彼女が呼びに来た理由を聞くことにした。
「で、俺に何の用?」
「まだ花飾り終わっていないじゃない。ケナイ叔母さんが呼んでいるって言ったでしょ。何でもテリーさんが急に熱を出して、店番がいないって」
「それでかぁ」
ケイナ叔母さんはディグの育ての親である。
彼がまだ物心つく前に両親が他界し、親戚であるケイナ叔母さんに引き取られた。普段はケイナ叔母さんが営む店の手伝いをしているが、今日は明日の豊穣祭の為に街の飾り付けの方の手伝いをしていた。
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ポピラン:ケシ科の植物。一年草であり、咲かす土地によって花弁の色は異なるが器のような丸く咲かす姿は変わらない。
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