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テリーとは、ケイナ叔母さんの店で働いている若い青年だった。ケルド王国首都アガシィにある大学に通うために働いていた。来年で四年分の学費が貯まるらしく、晴れて夢が叶うと言う。
そんなテリーが熱を出したと言う。
彼はまだまだ花が残っているバスケットをアリエッタに押し付けた。
「じゃぁ、俺は――」
「待ちなさい! 残っている花を片付けてからよ」
こうして結局残りの花を飾ることになった。何とか言い訳をして――とは行かず、アリエッタの鋭い視線を受けながら、渋々飾り、少し日が傾いた頃に全ての花を飾り終えた。
時計塔の展望デッキから降り、外に出ると賑やかな人混みがディグの目の前に広がっていた。上からでは分からなかったが、ケルド王国や隣国から大勢の観光客が訪れ、気分は祭り一色であった。
先を行くアリエッタの後に続いてディグも人混みの中へと入っていく。
「――空虚な空 墜ちる漆黒の陰に人々は絶望を抱く
打ち捨てられた時の枷が 我らを 万物を 弄ぶ」
不意に酒場の開け放たれた窓から吟遊詩人の歌声が耳に入ってきた。
立ち止まり、その窓を見つめる。外からでは吟遊詩人の姿は見えないが、この歌に酒場の人達が盛り上がっているのが分かる。
「メルシアン教の聖歌ね。元々吟遊詩人の歌から派生した宗教って聞くし、信仰有無問わず吟遊詩人は歌っているみたいよ」
いつの間にか隣にいたアリエッタは言った。
メルシアン教は彼女が言うように吟遊詩人の歌から生まれた宗教で、この世界は門領域と呼ばれ、隔てる壁が崩壊し世界が滅びると言った預言を信じている。また、メルシアン教より古い時代に生まれたアヴァロン教とは、信仰対象が異なることから対立をしている。
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