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子供のディグからしてみればどっちでも良かった。ただ、世界が滅びると言うメルシアン教の方が、格好いいと思っていた。
窓から視線を逸らす。
――始まるよ
耳元で誰かがそう囁いた。
バッ、と振り返るもそこには誰もいない。行き交う人の群れがいるだけで、誰もディグに声を掛けた様子はない。隣のアリエッタを見るが、声の質からして少年のような声だった。
耳に触れる。
アリエッタが不思議そうな表情を浮かべた。
不意に空が割れた。
街を覆い尽くすような深い亀裂が空に走り、漆黒の亀裂の隙間から分厚い爪が現れた。抉じ開けるように爪は亀裂を縦に裂き、内側から巨大なドラゴンの顔がするりと這いずり出る。禍々しいほどの黒に塗り潰された体躯が、卵から零れ落ちるように亀裂から街の上空へと落下した。
轟音と土煙が生まれた。
これを合図に亀裂からドラゴンが現れ、次々と街に降下していく。最初に落下したドラゴン程の大きさではないが、人間よりも大きいドラゴンは鈎爪、ファイアーブレスなどを駆使して街を蹂躙していく。
フレヤの豊穣祭を明日に控えたその日、アラヴァスト新龍皇国によるケルド王国への宣戦布告が始まった。
街に落下したドラゴンは体勢を整え、街を覆い尽くす翼を広げ、咆哮。まるで侵攻を告げる角笛のようであった。その咆哮を天に轟かすは、アラヴァスト新龍皇国の龍皇帝ゲシュ=タティノス本人であり、皇帝自ら戦場に降りたのだ。
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アラヴァスト新龍皇国:カルディナス深淵領域を支配するドラゴン族の国。龍皇帝ゲシュ=タティノスは、群れを成すことがなかったドラゴン族を纏め上げ、たった一代で巨大な大国まで成長させた。人間族やエルフ族を始めとした多くの種族との関わりは避けていたが、イリアス暦三一二年春華の節に人間族のケルド王国へ宣戦布告をした。
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