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一瞬の出来事でパニック状態になった人々が助かろうと駆け出した。だが、空の支配者達は狩りをする鷹のように捕らえ、鈎爪を彼らの身体に食い込ませて引き裂く。こっちではない、あっちだ、と向きを変える彼らに灼熱の焔が吐かれる。
逃げ惑う人々の群れに呑まれたディグはようやく、何をすればいいのか頭を動かし始めた。
「アリエッタ!」
姿の見えない彼女の名を叫ぶ。
炎々と燃え盛る市街地に黒き煙。龍皇帝ゲシュ=タティノスの巨体が動く度、建物が破壊され、瓦礫が大通りに飛び散る。
ぐしゃり、彼の目の前で人々が瓦礫に潰された。
嘔吐を必死に堪え、力一杯に彼女の名を叫ぶ。
「アリエッタァ!」
目に涙を浮かべる彼に黒い影が落ちた。
恐る恐る振り返ると鋭い牙を剥き出しに威嚇するレッドドラゴンがいた。ゆっくりと開かれる牙の向こうには、赤黒い口内が広がり、血生臭い匂いが広がる。
嘔吐した。
迫りくる死に全てを吐き出し、震え上がる身体を抱きしめた。死ぬのなら一思いに、そんな愚かな希望すら抱いてしまった。
暗闇がディグを包み込もうとしていた。
――Urgaaaaa!
ドラゴンの悲鳴が響き渡った。
急に開けた視界にディグが顔を上げると焔に包まれるレッドドラゴンの姿が見えた。焔の加護を受けたレッドドラゴンが何故、焔に焼き焦がされているのか。それは、ドラゴンを襲った赫い影が原因であった。
星々を抱く焔の翼が火の粉を散らしながら舞い、嘴から蒼くオレンジ色で赤い色で――様々な色を描き出す焔が漏れていた。幻想的な火の鳥は翼を羽搏かせると嘴から火炎球を吐き出し、レッドドラゴンの身体をさらに燃やした。
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