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しかし桐にカノジョはいない。一緒に住んでいるわたしが証言するのだから、間違いない。
「……勃起不全とかか? それともロリコンか?」
本人には絶対聞けないけど。
こりゃ一度、兼六園の裏におる占い師にでも相談せんとあかんかもしれん。
立ち退きのお知らせを、わたしは机にたたきつけた。
これ、どうやって伝えればいいのかな。わたしから言ったら、別れたがってるみたいで嫌やなあ。
わたしは彼のことが好きだ。
出会ったときと比べて。
けれど、彼から「好きだ」と言われたら、それを受け入れる資格がないと感じている。
いまのところ、告白される気配はないし、わたしから恋愛的な告白をする予定もない。
アラサーの夏も、わたしの桐に対する思いは曖昧な恋心のままでいい。と思っていたけれど、そういう訳にいかなさそうだ。
全部、こいつのせい。
わたしは立ち退きのお知らせをもう一度にらんだ。
で、ガス代の領収書と一緒に隠しておくことにした。
ピピピピピ。
「わっ……」
炊飯器のタイマーに、思わず飛び上がった。心臓がバクバクしている。そうか、もうこんな時間か。
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