1 添い寝するだけの不思議な関係

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 台風のせいで時間の感覚が鈍くなっていた。 「あちっ」  炊き立てのご飯に文句を言いつつ、ちょいちょいちょいとおにぎりを握る。具はたらこだ。  作り置きのだし巻き卵は小皿に乗っけて食卓に出しておく。  コンロに戻って火をかけて片手鍋の中にある味噌汁を温め直し始めれば、あとは彼の帰宅を待つだけだ。 十九時半。  玄関で鍵を開ける音がした。ふっと部屋の気圧が揺らいだ。  わたしの体は軽くなり、リビングから玄関へ足早に向かう。 桐は革靴を脱いで、中に新聞紙を詰めているところだった。 「おかえり」 「……ただいま」 「靴濡れた?」 「うん、雨も降り出してきた」  立て掛けてあった傘を受け取り、黒御影の玄関タタキに広げて干す。 「なにニヤニヤしとんの?」 「えー? してへんし」  わたしをおちょくりながら、桐は黒のレインコートをハンガーにかけた。  コートの下は半袖のホワイトシャツ。薄いサックスブルーのストライプがよく似合っている。 ぎゅっと背中に抱きついて、顔を擦り寄せた。温かい。あったかくていい匂いがする。 「じゃ~ま」
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