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と軽く怒って、わたしをゆるく振りほどこうとする。その手に抵抗し「お疲れさまのハグだよ」だとか言えば、桐も諦めてそのままわたしをひっつけたままリビングへとずるずる移動した。
引きずられながら背中を見上げれば、汗ばんだ首筋が光って見えた。
「今日、駅前でリポートしてた?」
「見てたんだ」
「うん。でもあれ、大概は新人のアナウンサーさんとかがやるよね。どうしたのさ。桐は気象予報士でしょ?」
「あれね、ホント困るんだよ」
「え? どういうこと?」
「人が足りなくって」
「地方局っていっても、そんな……地上波の大きな局で人手不足とかあるの? 人気職だと思ってたんだけど」
「2年目が1年目引き連れて、ゴールデンウィーク明けから来なくなったんだよ」
「ひえ……っ」
「それで若くてなんでも言うことききそうな、気象予報士の俺に白羽の矢が立ったわけ」
「大変だね……」
「ああムカつく。なんとかしろよハゲチーフ!」
決して仕事では見せない悪態をつきながら桐は頭をガシガシと掻いた。
そして雨に濡れた靴下を滑らかな手つきで、ぽいと洗濯カゴへ放り投げる。ナイスシュート! 一発で入った。
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