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ふいに振り向いた桐が、わたしの顔の輪郭に指を添わせた。
彼は大きな目を細く弓なりにして、太陽のように笑う。
輪郭から、首へ。そして肩を滑り落ちてゆき、節くれだった指でわたしの手首を握った。
「今日は本当に疲れたわ」
大型犬が甘えてくる。
「お疲れ様」
よっこいしょ、と寝室へ向かった。
わたしの後ろを桐がとことこついてくる。
シーツに足を入れると、ひんやりしていて、思わず一度足を引っ込めた。
わたしがベッドへ横になると、ぴったり寄り添うように桐が背中を預けてくる。風呂上りの体温が、じわりとわたしに伝わった。
桐には不眠症の気がある。が、わたしと添い寝をすることで、ぐっすり眠れるのだという。
――頼む。一緒に寝てくれないか。
――何言ってんの? 子供じゃないんだから。
だいぶ昔に、そんな押し問答があった。
だが、そもそも、わたしから頼み込んだ同居だったので、彼の頼みを断る選択肢は端っから無かった。
家賃代わりにセックスしろ、とかそういう下品な頼みじゃないだけマシだ。わたしにそんなことを望まれても困る。
セフレとか、不倫とかは、わたしが一番苦手とする話題だった。
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