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そろそろ帰るか、と腰を上げたとき。浅田が捨てられた子犬のような目で見上てきた。
「あの、ひとつ頼みがあるんすけど」
「なんでしょうか」
「英語の採点手伝ってくれませんか」
「……英語は一番苦手です」
渋るわたしを、
「模範解答を写すだけだから」
と浅田は押し切る。
わたしもそこまで意地悪ではないので、ええ……と言いつつも手伝うことにした。机の端に乗っていた紙の山は、小テストの束だったようだ。浅田はそれを前にうなだれている。
「今日はカノジョとデートなんです。あいつは俺と違って福井の常勤教諭で……あぁ」
「わたしと無駄話してる場合じゃなかったやないですか」
「ほんまですよ。何時からデートなんですか」
「6時」
アホか。間に合うわけがない。
「遅刻しそうって、連絡いれとくのが良しですよ」
忠告しながら、わたしは10枚くらい小テストを手に取った。
「ありがとうございます……っ。あ、答えはこれっす。そのまま写してやっちゃってください」
「はいはい」
わたしは赤ペンを手に、慣れない手つきで英語の採点を始めた。
英文が書いてあり、そこを五択で埋める問題と、正序問題だった。
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