2 県立高校、わたしの仕事

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「ヘッドレストが濡れるから、頭つけないでね」 「善処します……。ふー、助かった」  そう言ってすぐに頭をつけた。  なにがふー、だ。  ねえ、人の話聞いてた?  わたしは怒りをアクセルに込め、坂道を加速した。  どんより暗い外。赤信号になって停まった車内は、雨音のバタバタという音がよく聞こえた。 「あのさ」  桐はゴソゴソ動き、すっと紙を差し出した。 「なに?」 「これ。俺、知らなかったんだけど」  ちらっと目線を落とせば、それは見覚えのある紙だった。 『当マンション老朽化による取り壊し、立ち退きのお願い』  入居者の皆様、の「皆」が雨に濡れて滲んでいた。 「ああ、これ。そう、あの、うん」  ドッドッドッと心臓が早鐘を打つ。 あれ、しまっていたはずなのに。いつ見つけられた? 横を向けば、彼は上目遣いでこちらをうかがっていた。  濡れた髪が、大きな瞳へ束になってかかっている。 「浦は知っていたんだよね」  眉がキッと吊り上がり、わたしを問い詰める。  わたしはただ、苦い顔をするしかなかった。  気まずい沈黙が広がる。  交差点の先頭で。よそ見してしまう。
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