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パーッ、とクラクションが鳴らされた。
「えっ、あっ、すみません!」
青信号に変わっていた。誰に言うでもなく謝罪し、急発進した。
景色が速度を上げて、窓を流れていく。
桐はこれ以上浦を責めようとはしなかった。
車内の沈黙が恐ろしい。
どうしようどうしようと内心でパニックになりながら、さらにアクセルを踏んだ。
少しの坂道でぶいーんと大きな音を立てる。
この車も、そろそろ替え時なのかもしれない。
駐車場に車を停めたときには、疲労困憊でへとへとだった。ふう、と大きなため息がこぼれる。
災難だった。印刷機の故障も、採点の手伝いも、大したことじゃないけれど積み重なればそれなりのダメージになる。明日からの補講も思いやられた。
「浦」
「……なに?」
狭い車内で、桐が腕を掴んだ。
「なんでもねえよ」
ぐいっと引き寄せられ、頬に唇が触れた。
「んっ」
喉の奥から、生々しい声が出る。
わたしはバランスを崩し、助手席側に転げた。
「えっ、あっ」
なんで、と洩らすわたしに桐はちょっと笑い、
「いちいち理由訊くなよ」
肩をぽんぽんと叩いた。
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