古都金沢の雨上がりの恋

１ 添い寝するだけの不思議な関係

　ソファでぐでぐでになっていると、スマホがぶるぶると震えた。LINEの新着通知。
『少し遅くなります』
　素っ気ないメッセージに脱力する。ふう、と息をついて『了解です。気をつけてね』と打ち込んだ。
スマホをしまって立ち上がる。
のそのそと歩いてキッチンに向かうと、否応なしにダイニングテーブルに置いていたプリントが目に入ってぎくり、とする。

　入居者の皆様。
　当マンション老朽化による取り壊し、立ち退きのお願い。
　先日開催いたしました説明会、委員会におきまして入居者の皆様から八割以上の同意を得られましたため、下記のとおり取り壊しを行うこととなりました。ご不便をおかけしますが、ご協力のほどお願いいたします――。

　マンションの取り壊し。それに伴う立ち退きのお知らせだ。
　さらにどよーんとした気持ちになり、暗澹たる思いで、ペラペラの紙を睨めつけた。
　築年数は４０年を迎え、老朽化という言葉に嘘はない。けれど、なぜこのタイミングなのか、という不満と、ここが自分たちの潮時なのか、という諦めが同時に押し寄せていた。