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ハルキはアイスコーヒーをストローで混ぜる。
「当て馬、ねぇ。一般的に恋愛で異性を好きになるけど、報われない存在として描かれるよね。でも、大地くんは相手の女と友達以上になりたいとか思ったの?」
「全然! 全く!」
友達だと思っていた幼馴染はきっと今頃「喧嘩をした後の仲直りは最高だね♡」とか言いながら冷えたクーラーの下で一緒の布団にくるまっているに違いない。しかし、そのことに嫉妬や嫌悪感が生じるかと言われればNOだ。
むしろもう俺を犠牲にした分うまくやってくれとさえ思う。今までの女友達に恋愛的なLOVEの感情を抱くことは本当になかった。
「でも、もう俺殴られたり被害にあったりするの嫌なんだよな......」
普通に友達で居たい相手に対して恋愛を絡められるのは非常に面倒くさい。たまに会って、くだらない話をしたいだけの相手が、たまたま女であるというだけなのに、どうしてこんな苦行を強いられねばならないのだろうか。
「じゃあもう他の女の子とプライベートで会うのやめる?」
「う〜ん。それだとなぁ」
繰り返される悲劇にうんざりしてきている俺と、そんなことをするわけにはいかない事情がある俺との間に葛藤がある。
そのとき、スマホが鳴った。メッセージアプリからだ。
画面を開くと職場の同期の佐野あきこさんからの音声付きお疲れ様ですスタンプの声がする。佐野さんは小柄でメガネの可愛い人事の子だ。前から感じが良いな思っていたし、給湯室で顔を合わせるたびにお話をするぐらい仲が良い。
“今週末良かったらご飯に行きませんか? 相談したいことがあって......”
俺は迷わずスタンプを押して返事をした。揺るぎない決意が俺を後押しする。
「はい、夜ご飯喜んでぇぇ!」
「そういうところがさぁ」
渋い顔でハルキは俺を見る。女友達は懲り懲りだという話の後にこれでは確かに情緒不安定なやつに見えるのかもしれない。しかし、俺の中では何も間違ってはいない。
そういえば付き合いは長いがハルキに最近の心境の変化を話したことはなかった。
「だって俺、そろそろ彼女は欲しいもん」
「え?」
「今まで会ったことのある女友達を彼女にしたいって気持ちはないから、一から探してる」
ハルキは持っていたストローを落とした。
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