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[プロローグ]
“てめぇ! 俺の女に何しやがる!”
耳に残るのは殴られるほんの数秒前の怒鳴り声。
この世の中には「運命のふたり」という忌々しい存在が間違いなく存在する。
なぜ言い切れるか? それは俺、加藤大地が数ある「運命のふたり」の被害者だからである。
「いってぇ……」
殴られた頬をさすりながら熱反射で視界が歪みそうになるアスファルトの道を歩いていく。普段は20代中盤の平均身長に平均顔面偏差値のなんの変哲もない俺だが、今日だけは周囲の人たちが波が引くように避けていく訳アリな存在であること間違いなしだ。
急な呼び出しにも関わらず、いつもの待ち合わせ場所の喫茶店に先に居た人物は俺の顔を見るなりポカンと口を開けた。筧ハルキ、帽子を深く被った小柄な男は俺の2つ下の後輩でよく話を聞いてくれる。
「わぁ、凄い顔」
「俺、思うんだ。プロボクサーが感情のあまり一般人を殴るのは良くない」
「うーん、それは相手が悪かった。また、当て馬案件かな?」
俺に起きたことを簡単に要約する。女友達の家に用事があって行ったら女友達と交際未満の男にタコ殴りにされた。
「俺、貸してた漫画を取りに行っただけなんだぞ。それなのにタコ殴りにされるなんて誰が予想出来る?」
勘違いされ悲鳴をあげられの修羅場に巻き込まれて殴られて今に至る。その場をなんとかおさめて勘違いを正すと、2人は正式に交際を始めることになった。
まさにハッピーエンドだ。俺以外は。
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